近頃、スマートフォンを取り巻く充電環境は各メーカーの競争のポイントとなっており、様々な独自充電規格が登場しています。
充電環境について、USBの規格を策定しているUSB-IF(Implementers Forum)は、USB PD(Power Delivery)という規格を提示しています。今回は全ての充電規格のもととなる「USB PD」について、ざっくり解説していきます。
USB PDは最大100Wの充電が可能な規格である
USB Type-Cの登場により、ここ数年でPC、カメラなどの様々なデバイスでのUSB経由の充電が急激に増加しました。
一方で、USB PD登場前まではUSB経由の充電は公式には最大5V 900mAhの4.5Wまでしかサポートされておらず、各メーカーが独自に規格を拡張している状態でした。そこで、USBという共通インターフェイスで共通の充電器を利用できるように、USBの企画策定団体のUSB-IFが定めた充電に関するルールがUSB PDです。
USB PDは最大100Wの充電ができるようになっています。これにより、スマートフォンからPC、ゲーム機など多種多様な機器で充電ができ、USB PDに対応した充電器であれば互換性が生まれます。
USB PDのパワールール
さて、USB PDには、USB-Type-Cのケーブルに流していい電流、電圧を定めた「パワールール」が定められています。そのパワールールは以下の通りです。
- 0-15Wの充電:5V固定、0-3A
- 15-27Wの充電:9V固定、1.7-3A
- 27-45Wの充電:15V固定、1.8-3A
- 45-60Wの充電:20V固定、2.3-3A
- 60-100Wの充電:20V固定、3-5A
このように、電圧は5 / 9 / 15 /20 Vで固定(±0.5Vまで許容)、電流は可変という規格となっています。
なお、60Wで区切りを入れている理由は次項で詳しく述べます。
電力[W]=電圧[V]×電流[A]という等式が成り立ちます。電力が大きければ大きいほど充電速度は早くなります。
ちなみにバッテリー容量を示すmAhは、電流[mA]×時間[h]の単位です。また、多くのスマートフォンに採用されているリチウムイオン電池であれば3.7Vの電圧をもちます。(リチウムのイオン化傾向により固定電圧となります。高校化学出やりましたよね?)
そのため、例えば3000mAhのバッテリーをもつスマートフォンは3×3.7=11.1Whのエネルギーを持つため、15WのUSB PD対応充電器で充電すると11.1÷15=0.74h、つまり理論上では45分ほどで充電が完了します。
例えば、45W充電に対応したスマートフォンを27Wの充電器で充電する場合を考えます。(スマートフォン、充電器ともにUSB PD対応)
USB Type-Cケーブルを接続すると、スマートフォンから「45Wの充電(15V, 3A)ください」という信号が流れます。充電器側は27Wの充電しかできませんから、「27W(9V, 3A)が上限です」と応答します。スマートフォン側はUSB PD対応ですので27W(9V, 3A)の充電もできるので、受け入れ許可を充電器側に送信し、最終的に27Wの充電をすることになります。
充電器とスマートフォンが逆でも同じ現象が起こります。そのため、USB PD対応であればスマホにPC用の充電器で充電しても問題ないということになります。なお、USB PD非対応端末に対しては5Vのみの充電となります。
3Aを超える電流を流すにはeMaker認証が必要
電気の危険性は電圧でも電力でもなく、電流にあります。
一般的には1mAで痛みが、10mAで超痛くなり、100mAを超えると致死電流となります。3A, 5Aという電流は人にとってはもちろんのこと、ケーブルにとっても実はかなり危険な数値なのです。
横軸が電流(A、危険性)、縦軸が電力(W、充電速度)、傾きが電圧(V)を示すことになる。
そのため、USB PDでは3Aを超える電流を流すとき、つまり60W以上の充電を行うときに、USB Type-Cケーブルが安全基準を満たしているかどうかを確認してから流すようになっています。
また、この認証をeMaker認証といいます。eMaker認証のないUSB Type-Cケーブルを用いて100WのACアダプターを利用しても最大60Wまでしか充電できないようになっています。
USB PDはメーカー独自の拡張が可能
USB-IFは、USB PDに準拠した上で、独自に5 / 9 / 15 /20 V以外の電圧を採用することを認めています。一方で、USB Type-Cの電流に対する定格が3Aまたは5Aであるため、正式には5Aを超える電流を出力することはできない事になっています。
「事になっている」というところがミソで、実は各メーカーの充電速度競争の結果、5Aを超える電流を流す充電規格が乱立しているのが現状です。
各メーカーの充電規格の現状
それでは、各メーカーのスマートフォンに対する充電規格の現状を見ていきましょう。
AppleはUSB PDに完全準拠
Appleは完全にUSB PDに対応しています。
Appleからは18W、29W、30W、61W、87W、96Wの充電器が登場していますが、どれもUSB PDに準拠しています。
SamsungもUSB PDに完全準拠
SamsungもApple同様にUSB PDに完全準拠しています。
特に、Galaxy S20シリーズの充電器はUSB-IFより初めて認定を受けたものとなっています。
Xiaomiは独自規格の高速充電を開発中[100W]
Xiaomiの高速充電は、100Wの高速充電が展示、66Wの高速充電がリークされています。
100Wについては正式には不明ですが、66Wについては11V/6Aとなっており、USB Type-Cケーブルの規格を無視したた大電流です。
しかし、最新機種に至るまで実際に販売されている端末はすべてUSB PD準拠となっており、最大でもMi 10 Proの50Wとなっています。現状はUSB PD通りで問題ないですが、今後独自規格にはしる可能性があるので注意が必要です。
Huaweiは独自規格のHuawei SuperCharge[40W]
Huaweiは独自の充電規格であるHuawei SuperChargeを採用しています。
これは最大40W(10V/4Aまたは5V/8A)の高速充電ができるというものです。8AはUSB PDの規格以上の、びっくり仰天するほどの大電流ですのでしっかりと制御できないと危険です。しかし、Huawei SuperChargeはUSB Type-A to USB Type-CケーブルですのでUSB Type-Cケーブルの5Aまでという基準からは外れます。
Huaweiは、SuperChargeは5A以上の電流に対応したケーブルを利用するように注意しています。また、10秒以上かけて認証した後にHuawei SuperChargeが開始するということでしっかりと安全対策はなされているようです。
Huawei SuperChargeに対応した公式ケーブルは内部が赤く塗装されています。ケーブルに注意して利用しましょう。
OPPOは独自規格の「Super VOOC 2.0」[65W]
OnePlus、Realmeなどのブランドを持つOPPOは独自の充電規格、Super VOOC 2.0を採用しています。
これは2つのバッテリーを同時に高速で充電することで擬似的に65Wの速度を実現する技術です。5V/6.5A x 2で合計10V/6.5A、結果的に65Wとなります。
6.5AというHuaweiほどではないもののかなりの大電流を流しています。USB Type-Cケーブルの規格を超えていますが、Huawei同様にUSB Type-A to USB Type-Cケーブルを利用します。一応USB PDに対応した上での独自の拡張機能となっており、純正ケーブルと純正ACアダプターを利用する際にしか動作しないということになっており、安全対策はしっかりとしてあります。
Vivoは独自規格の高速充電を開発中[120W]
VivoはXiaomiが開発中の100W高速充電に対抗すべく、120W高速充電を開発中です。
120Wとなると確実にUSB PDの規格をオーバーしています。製品に導入されたら安全性に注目する必要がありそうです。
なお、現在のVivoのフラッグシップスマホであるiQOO 3 5GはSuper FlashCharge 2.0という55W高速充電を採用しています。これがUSB PDに対応しているかどうかの表記は残念ながら公式にはありませんでした。以下のYouTube動画を見るに、55Wは11V/5Aで55Wを達成しており、20V以上で5AまでというUSB PDの規格を超えています。一方で、USBケーブルはHuawei, OPPO同様にUSB Type-A to USB Type-Cケーブルを利用しており、利用規約違反を回避しています。
https://www.youtube.com/watch?v=dRoVr5K4Q8k
Vivoのスマートフォンも純正品のみの利用にとどめるのが良さそうですね。
AnkerのPowerIQ 3.0はUSB PDと互換性あり
最後は皆さん大好きのAnkerです。
Ankerは充電に関してPowerIQという技術を採用しています。そのうち最新のPowerIQ 3.0はUSB PDおよびQualcommのQuick Charge 3.0と互換性があります。
特徴としては、PowerIQ 3.0対応充電器は独自のICチップが組み込まれており、接続機器を自動で認識し、その機器に適した最大のスピードで充電を行うことができることです。
Ankerの充電器は信頼できると言っていいでしょう。
以上、USB PDの規格及び各メーカーのUSB PDへの対応状況まとめでした。
Huawei, OPPO, Vivoあたりは独自の充電規格があります。これらのメーカーの製品に限らず、近頃充電関係で痛ましい事故が多々起きていますので、非純正ケーブルを利用する際には気をつけましょう。
Source : USB-IF
type Cのピンアサインはよう知らんですが、あんなちっこい接点で、あんな細っこい網線に大電流流すというのは電気かじったことがある人ならどれだけおっかないことか一発でわかります。
5Aも大概ですが、低品質なケーブルは本当に注意が必要ですね。しかもこうかだからといって必ずしも高品質とは限らないのも悩ましいところです。
皆さん火事には気を付けましょう…。
# これまでいくつかUSB PDの記事読んできましたが、いちばん腑に落ちる解説でした。リビジョン等の深掘りするにしても、取っ掛かりとして適切に取捨選択されてますね。
これからも良い記事楽しみにしてます。