Google出身で、Androidを生み出した「Androidの父」とも言われるAndy Rubin氏によって立ち上げられたEssential Products(Essential)。同社は2017年5月にEssential PH-1を発表し業界を大きく賑わせましたが、話題は長くは続かず、2020年2月にビジネスは閉ざされることとなりました。
そんなEssentialが失敗した「本質」とは何だったのか、筆者による考察をこの記事でざっくりと振り返りをしていきます。
目次
Andy Rubin - ''Father of Android''
Essentialの共同創業者として知られるのは、Google出身で「Androidの父」とも呼ばれていたAndy Rubin氏です。同氏は1963年にアメリカのニューヨークで生まれ、幼少期から機械へのつ強い関心を見せていました。大学卒業後にAppleでエンジニアとして働いた経験もあり、その後Googleで9年間を勤めています。
2003年にAndroid Inc.を共同創業してAndroid OSの開発に着手。2年後の2005年に同社はGoogleに買収され、Andy Rubin氏ら主要メンバーもGoogleに移っています。GoogleでのAndroid OSの開発から正式リリースまでに大きく貢献したのがAndy Rubin氏であり、彼がAndroidの父と呼ばれる所以なのです。
Andy Rubin氏がGoogleを離れた理由についてはいろいろな疑惑があり議論を呼びました。詳細は触れませんが、それらが彼とEssentialブランドの名声に響いた可能性も否定できません。
Essential PH-1 - 時代の先は行っていただろう
Essentialの最初で最後の製品が、2017年5月発表のEssential PH-1です。チップセットにSnapdragon 835を採用し、4GBの内蔵メモリ、128GBの内蔵ストレージを搭載しています。5.71インチ(1312 x 2560)のIPS LCDディスプレイはとても小さい水滴型ノッチを備えていました。充電端子にUSB Type-Cを搭載し、3,040mAhのバッテリーは27W高速充電で充電が可能となっています。なお、初期バージョンAndroid 7.1だったこのスマートフォンは最新のAndroid 10にも対応しています。
発売当時の価格は699ドルとなっていました。2017年8月発売の機種でしたが、前述の通り当時は大手メーカーでも採用していなかった水滴型ノッチ付きディスプレイを使用していたことが印象的です。2020年の今になって見ても小さいと思えるノッチデザインは、当時としてはとても革新的なものでした。ディスプレイ全体を見ても幅が狭く均等なベゼルは高級感のある印象を与えました。背面のセラミック素材を使ったパネルも加わり、Essential PH-1には高いデザイン性があったでしょう。
別売りのカメラ用アクセサリを装着することで360度の撮影が可能になるなど、もの新しさを感じる一面ありました。一方で3.5mmイヤホンジャックが非搭載というマイナスポイントもありました。2017年当時では日搭載モデルはまだ珍しく、受け入れられないユーザーもいたようです。
スペックを見る限りは当時のスマートフォンの中でも高いコスパを誇っていたと考えられます。
ユーザーデータの流出問題
2017年にEssential PH-1を事前注文したユーザーがEssentialを装ったスパムメールによって住所や運転免許証の写真などの個人情報流出被害に遭うということがありました。一部の被害ユーザーは商品の代金が無料になるなどの補償を受けましたが、あまり良い出だしとは言えませんでした。
We’re aware of & looking into a recent e-mail received by some customers. We’ve taken steps to mitigate & will update with more info soon.
— Essential (@essential) August 30, 2017
バグだらけのソフトウェア
Essential PH-1がどのようなユーザーをターゲットにしていたか。やはりそれはAndroidスマートフォンを好み、ガジェットに対してある程度の関心があるコア層だったでしょう。ピュアAndroidインターフェイスや高性能スペックなどを特徴とする、今となっては大ヒットしたOnePlusのターゲット層と一致していると言えます。
同じような路線で大成功を遂げたOnePlusに、かたや失敗をしたEssential。両者の違いの一つは製品ソフトウェアの安定性です。
Essential PH-1は一切のカスタマイズがされていないピュアAndroidを採用していましたが、ソフトウェアにクラッシュなどをはじめとするバグが非常に多いことが話題となりました。
サポート体制の悪さ
バグだらけのソフトウェアに対してEssentialは継続して修正パッチの配信を行い続けましたが、それでもなお収まらない問題にユーザーが辟易していたのは事実です。
バグ修正は行われていたものの、Essentialはサポート体制が整っていないとも言われていました。やはりEssentialのようなスタートアップにとって大手メーカーと同じレベルのサポートを提供することは難しかったのでしょう。
Essential創設者のAndy Rubin氏のGoogle時代の専門はAndroidをはじめとしたソフトウェア関連です。彼に続いた開発陣らもモバイル業界で経験を持つ実力者が多くいたといいますが、それだけにユーザーからの失望は大きかったようです。
一つのキャリアからの独占販売を選んだRubin氏
日本と同様にアメリカにも大手キャリアは当然存在します。Essential PH-1ですが、アメリカ国内でSprintという大手キャリアの一つのみからの独占販売となっていたのです(キャリア版の場合)。
当時のSprintはSoftBankの子会社。Sprintと孫正義を選んだAndy Rubin氏の判断は果たして正しかったのか、Essentialがなくなった今に問われる問題です。
価格の下がり方は異常
スマートフォンに限らず、流通価格には時に世間からの本当の製品評価が現れます。Essential PH-1の新品・中古価格の落ち方というのは当時のアメリカで話題になることがあったのです。事実として、筆者がEssential PH-1(SIMロック解除済)の中古品相場をアメリカでチェックした時*は、2018年の冬の段階で既に200ドルを切っていました。一概には言えませんが、アメリカ国内での価格の落ち方はEssentialのデビュー作の失敗を当時から暗に示していたのです。
*注:筆者による体験談です
プロジェクトGEM
当時のEssentialではプロジェクトGEMという新製品開発が行われていました。コンセプトは非常におもしろいものでしたが、最終的な製品化には至りませんでした。その具体的な理由は発表されていませんが、やはりユーザーからの期待も低く、十分な投資を得ることができなかったと予想できます。厳しい言い方をすれば、やや現実的なコンセプトから離れていた、Essentialの開発陣とユーザーの理想に対してのギャップがあったのでしょう。これはプロジェクトGEMに限っておらず、EssentialとAndy Rubin氏の両方に見られたものでした。
一方で、縦長ディスプレイという似たコンセプトで、より現実的なラインを目指していたSonyは、Xperiaの新機種で21:9アスペクト比のディスプレイを採用したことで市場において一定の地位を確立しました。
Essential Phone PH-1を2020年の今に買う価値があるかと聞かれれば、答えはNOになるでしょう。Androidの生みの親によるAndroid搭載スマートフォンが必ずしも市場で成功するわけではないということが証明された一件となりました。
>>2003年にAndroid Inc.を共同創業してAndroid OSの開発に着手。2年後の2005年に同社はGoogleに買収され、
これ意外に知られてないんだよね
GoogleにとってはYouTubeの買収と同じような感覚だったんだろうね。