スマートフォン製造分野で世界を代表する韓国の財閥系企業 Samsung。Galaxyブランドで知られる同社は、Androidスマホの世界シェアで常に一位の座を守り続けています。そんなSamsungが世界トップに上り詰めることができた原因を探った先にあるのは、独自の事業戦略と他社にはない強力な生産・開発基盤でした。今回はSamsungがスマホ創成期にどのようにして競争を勝ち抜き、勢いを伸ばし続けてきたのかに迫ります。
この記事は広島経済大学経済研究論集第38巻第2 号(2015年9月)掲載の広島経済大学経済学部教授 山本雅昭氏による学術論文「スマートフォン市場における Samsung の成長戦略」を参考に執筆しています。
目次
王者Appleと巨人Samsung
話は遡り2008年。フィーチャーフォンが一般に普及していたころ、AppleがiPhone 3Gをもって携帯電話市場へ新たに参入をします。この出来事が、市場内のNOKIAやMotorola、RIMなどの大手企業の業界内でのポジショニングを大きく動かすきっかけとなりました。
2007年から2008年ごろをはじめとするフィーチャーフォンからスマートフォンへの転換期が各企業にとってカギであり、その時期にどう動いたかが今後のシェアに大きく影響することになりました。この転換期に競合他社を大きく引き離し大成長を遂げたのが新たな王者Appleと巨人Samsungだったのです。
他社と違ったのは両社の経営戦略
同じスマートフォンでもiOSとAndroidという異なるOSをそれぞれ製品に採用するAppleとSamsung。両者は一つのマーケット内にいながら異なるユーザー層をターゲットにし、マーケットシェアを大きく広げます。スマートフォン転換期から2012年には合計で約50%(表2)というマーケットシェアでツートップに躍り出た両者に共通していたのは、競合他社とは異なる経営戦略でした。SamsungとAppleとの密接な関係性とそれぞれの経営戦略なしにSamsungの成功要因を語ることはできません。
数字で見るSamsungの躍進
SamsungおよびAppleの経営戦略に触れる前に、Samsungとその他競合他社の市場シェアの動きを確認します。
スマートフォンという製品が世の中に現れるようになったのが2007年です。この当時は爆発的ヒット機種を多く出したNokiaが37.8%のシェアが一人勝ちをしている状態。Samsungも健闘しているものの、三番手のポジションにいました(表1)。
2011年になりAppleと並んでスマホ市場での勝ち抜きに成功したSamsung。2012年にはAppleとの差を大きく拡大し、30.30%というシェアでトップに残り続けました。こうして数字でシェアの推移を見ると、Samsungの成長速度がどれほどだったかが明らかになります(表2)。
2014年の世界スマートフォンマーケットシェアでは、Samsungのシェアは24.50%となっています。これは競合他社のシェアを合計しても簡単に追い付けない数字であり、世界に流通するスマートフォンの四台に一台がGalaxyだったことになります。2012~13年から比べるとシェアが落ちていますが、Appleの市場シェアも落ちており、業界内の上位ポジショニングに大きな変化はありません(表3)。
SamsungがApple・競合と大きく異なるもの
フィーチャーフォンからスマートフォンへの転換期に頭一つ抜けたSamsungとAppleでしたが、両社の戦略は大きくことなっていました。Appleが当時から採用しているのはロックイン戦略というもの。Appleの事業戦略はシステムロックインを応用していると言われており、Appleは製品供給を通信キャリアに最低販売数を設けた上で契約を持ちかける仕組みになっています。通信キャリアとの契約が締結された時点でAppleは契約上の販売数、いわゆるノルマ分を販売したことになり、勝ち抜けが約束されるというものです。日本でも、2011年9月までSoftbankがiPhoneを独占的に取り扱ってきました。
一方のSamsungは各種半導体製品や電気・電子部品の製造機能も有していることから、スマホ市場において最終製品ビルダーと部品メーカーの二足のわらじを履くことができました。スマホ製造開発のプロセスの大部分を自社グループ内で完結させる事業戦略が他社との決定的な差となり、躍進の理由となったのです。
NokiaやMotorolaといったライバルが失敗した原因は、MPUや通信チップ、バッテリーのスマホ用部品の調達に困難を要したことにあります。Samsungはスマートフォン向け部品の生産施設設備も強く、需要の予測も他社より上手くできていたのです。
ビジネスパートナーとしてのAppleとライバルとしてのApple
SamsungにとってAppleとは部品供給を行うビジネスパートナーであり、同じくスマホ市場で競い合うライバルでもあります。
Appleに部品供給を行う部品メーカーでもあったSamsungは、その立場上知り得たAppleの事業戦略をもとに自社にも適用していったといわれます。この件についてAppleはSamsung相手に特許侵害訴訟を起こしていますが、iPhoneはSamsungからの部品供給なしにスマホ製造を完成させることはできません。結果的にSamsungとの関係を完全に断ち切ることはできず、Samsungの躍進を許すしかできませんでした。
このストーリーは部品市場におけるものでしたが、間接的にスマホ市場へも影響を与えています。AppleはSamsungからの部品供給により成功を収めましたが、皮肉にもSamsungも同時にAppleを利用し更に大きな成功を収めたということになります。
山本氏はSamsungの今後の継続的な成功のためにはAppleを含むビジネスパートナーらとの協調が必要であると論文中で指摘しています。
Appleのロックイン戦略が市場に与えた影響
Appleのロックイン戦略は通信キャリアに最低販売数を設けるものでしたが、当時にAppleとiPhoneの供給契約関係になかった通信キャリアにとって、SamsungとGalaxyは唯一にして最善の選択肢だったのです。
急速に伸び続けていた当時のスマートフォン需要に供給量で追いつくことができるのはAppleやSamsungしか存在しておらず、そこでAppleとの契約をしていない通信キャリアというのはSamsungを選ぶしかありません。これはSamsungのGalaxyの優劣の問題ではなく通信キャリア側の事情であり、Appleはロックイン戦略の採用により最大のライバルを助けてしまったのでした。
スマートフォン創成期からは消費者のニーズへの変化や新規参入、技術発展などで業界内のポジションも大きく変化した現在。2019年Q4の時点でも世界トップのマーケットシェアを維持するSamsungの今後の動き方にも刮目しましょう、
Source: スマートフォン市場における Samsung の成長戦略
力作コラムありがこうございます、なかなか読み応えありました
アップルのロックイン戦略はいろんなところで騒動を巻き起こしてますよね
初期の北米ではAT&Tが解約阻止負担金を設定して脱獄ユーザーから訴訟食らったり、欧州では発売当初からそもそもデバイスとキャリアの縛りという概念が希薄だったから反発を受けた
そもそもの発端はアップルというかジョブスがすべてをコントロールしたがったからだと思ってました
日本でもドコモがiPhone扱うときに結構揉めましたよね
しかしアップルから初代iPhoneのCPUやタッチスクリーンの製造を請け負いながら「このテクノロジーで今後食っていくぞ」と決断した李健熙の慧眼はすごいと素直に思います
ひとつだけ
☓フューチャーフォン
○フィーチャーフォン(feature phone)
シュミレーションとシミュレーションの違いみたいなもんですけど一応ご指摘を