さて、前回はAnkerから発表された新しい充電器(ACアダプター)のPowerPort Atomについて、まとめました。今回はその小型軽量化された新たな充電器(ACアダプター)のPowerPort Atomに使われる次世代素材、GaNについて、GaNとは何なんのか、どうしてGaNを使ったら小型軽量化、高効率化できるのかについて解説していきます。
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目次
次世代素材、GaNの性能はいかに?
この小型軽量充電器のPowerPort Atomシリーズに用いられている次世代素材のGaNは、窒化ガリウム、ガリウムナイトライドと呼ばれているもので、空気中にある窒素と、手で持つと溶けることで有名な貴金属のガリウムでできた、半導体としての性質を持つ結晶です。
GaNとはどういうものか、どうして小型軽量にできたかを解説します。
GaNとは?
GaNは上で述べたように、窒素とガリウムでできた半導体結晶です。結晶構造は上の写真のような感じです。
ノーベル賞を受賞したことで有名な青色発光ダイオード(青色LED)や、PowerPort AtomのようなIT半導体として使われています。
従来の半導体、Si(シリコン)との違いは?
今までのPCやスマホに用いたれていた半導体は、Si(シリコン)が主流でした。窒化ガリウムはシリコンと何が違うのか、見ていきましょう。
シリコンはSiがダイヤモンド構造をとった結晶で、入手しやすく、長年使われてきたので純度の高いものが比較的容易に入手できるために広く使われてきました。
このシリコンですが、みなさんご存知の通り充電時に大電圧大電流をかけると発熱を起こしやすいため、PCやスマートフォン、ACアダプターには放熱回路を組み込む必要がありました。
研究段階のACアダプター(Anker社のものではありません)
Telescope Magazine「省エネを創り出すパワー半導体 第2回」より引用
窒化ガリウムはこの発熱を抑えることができるため、放熱回路の部分を省略、簡略化することができ、結果的に小型化、軽量化することができたのです。
Snaken「次世代パワー半導体」より
これがシリコンと窒化ガリウムの性能の差を表した表です。
バンドギャップとは?
一つ目の数値はバンドギャップと呼ばれるものです。バンドギャップとは結晶体中の価電子帯と伝導体のエネルギー準位の差のことを言います。これだけじゃ何言ってるかわからないと思いますので、具体例を使って簡単に説明します。
電気を使って説明します。バンドギャップ分以上のエネルギーを投入するとバンドギャップを超えられ、電気が流れるようになります。銅、鉄などの電気を流す素材、つまり導体はこのバンドギャップがなく、ちょっとのエネルギーで電気が流れます。また、ゴムなどの電気を流さない素材、つまり絶縁体はこのバンドギャップがとても大きく、日常的な範囲では電気は流れず、雷レベルのエネルギーを加えないと電気が流れません。半導体はその中間で、微妙に電気が流れたり流れなかったりするものです。
バンドギャップからわかる性能の差
ここでもう一度先ほどの表を見ていきましょう。
Snaken「次世代パワー半導体」より
シリコンのバンドギャップは1.1eV、窒化ガリウムのバンドギャップは3.4eVです。窒化ガリウムの方がバンドギャップが大きいです。
バンドギャップが大きいと、大きな電圧をかけても電気が流れません。つまり、シリコンでは電気が流れてしまって壊れてしまうような充電時の大電流大電圧でも、窒化ガリウムだったらそれをかけても大丈夫ということです。
この値は「破壊電界」という数値からわかります。破壊電界は簡単にいうと、それ以上かけると電気が流れちゃって壊れるよーというギリギリの時の電界(電圧を距離で割った値)の数値を示し、これが大きいほど高電界に耐えられます。これを見ると、GaNはSiの11倍の数値になっています。
これらの結果を総合的に評価したのが性能指数というもので、GaNは性能がSiよりもよく、高耐圧、高耐熱で、Siよりも小型のもので同等の性能のものを作れるということになります。
※ちなみに「だったらバンドギャップでかければでかいほどいいじゃない」という気もしますが、電気を流したい時はちゃんと流れる方がいいので、バランスが取れていないといけないのです。GaNはたまたま充電などの高電圧、PC内部回路の高温時に最適だったという感じでしょうか。ここは少し自信ありません...
【豆知識】青色LEDについて【蛇足】
蛇足ですが、バンドギャップが理解できるとGaNが青色LEDに使われる理由がわかります。
興味がない方は飛ばしてください。
光について
光は電磁波という波として捉える事ができます。光の性質を表す数値として、波の1周期進む時の距離である波長という数値があります。
mycraft「LEDの光の波長と色」より
波長に応じて光の性質は変わります。波長が400nm(0.000400mm)の時は紫色の光、600nmの時はオレンジ色の光と決まっています。また、極端に波長が小さい時は人の目には見えず、紫外線、X線などに、波長が大きい時は赤外線、電波などと呼ばれます。
さて、波を起こすのにはそれなりのエネルギーが必要ですよね。波を作るのに必要なエネルギーと、波の波長には関係があります。
詳しいことは省きますが、プランク定数を用いた式を用いて式変換すると、
E(エネルギー)=1240/λ(波長)
という式が成り立ちます。
どうしてGaNは青色LEDの素材になるのか
ここも詳しいことは省きますが、半導体素材はそのバンドギャップに応じたエネルギーを吸収、放出します。
GaNのバンドギャップは3.4eVなので、先ほどの変換式にブチ込むと、波長が365nmになります。つまり、GaNにエネルギーを加えると、365nmの光を放出する事ができます。
365nmの波長の色は、ぎりぎり可視光に入らず、紫外線領域です。
青色蛍光LEDは、このGaNにインジウムを少し混ぜる事でバンドギャップを少し小さくし、これが青色の波長になるように調整したものなのです。
まとめ
結果として、GaNを利用したACアダプターはさらなる小型・軽量化をすることができ、PowerPort Atomのように実用化され始めています。
(なお、一部報道では窒化ガリウムを新素材と報じていますが、窒化ガリウム自体は2000年ごろからあり、研究はすでに盛んに行われており、青色発光LEDですでに使われているような半導体ですので新素材ではなく次世代素材というのが正しいです。)
PowerPort Atomは窒化ガリウムを使ったガジェットの先駆けになります。これからGaNを利用した製品がどんどん出てきて、PC、タブレット、スマートフォン、その他周辺機器が小型化されるようになればいいですね!
Source : Telescope Magazine, Sanken, Mycraft
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