つい先日、Sonyより新型フラッグシップスマホのXperia 1 Ⅲが発表されました。
Xperia 1 Ⅲは最新のSoCを搭載するだけでなく、カメラ、ディスプレイ、オーディオとSonyが得意とし、今まで培ってきた技術を生かしたモデルとなっており、他のスマホとは一線を画し、ひと味もふた味も違う仕上がりとなっています。
目次
Xperia 1 ⅢはSonyの強みを生かしたSonyにしか作れないスマホ
Xperia 1 Ⅲはその発表をみただけでSonyが本気で作ったスマホだとわかります。
撮る体験に重きを置いたカメラ
Xperia 1 Ⅲのカメラは超広角+広角+望遠という構成。
一見よくある構成に見えますが、そこにはSony独自の機能がたくさん詰まっています。
まずは画角。大三元や小三元に代表されるような光学16mm、24mm、70mm、105mmの4種類の焦点距離となっています。
特に2種類の望遠レンズは光学ズーム方式の可変式望遠レンズを採用しています。
また、Sonyが特に力を入れているのがオートフォーカス。被写体との距離を測定する3D ToFカメラで大まかにピントを合わせ、デュアルフォトダイオードセンサーで正確に仕上げます。このオートフォーカスシステムとα譲りのSony独自のアルゴリズム「BIONZ X for mobile」により秒間20コマのリアルタイムオートフォーカスを実現。他にも被写体をリアルタイムにトラッキングしたり、リアルタイム瞳AFが利用できます。
Photography ProやCinematography Pro、秒間60コマのAF/AE演算、AI超解像ズーム、ハイブリッド手ブレ補正など他にも様々な機能が搭載されていますが、そのどれも他のスマホではアピールされることのない点が多いです。
よりリッチなコンテンツが楽しめる4K120fpsの有機ELディスプレイ
外観からもわかるXperia 1 Ⅲ最大の特徴が21:9の横長ディスプレイです。
Xperia 1 Ⅲのディスプレイは世界初の4KHDR 120fpsに対応した有機ELディスプレイ。
また、スペックだけでなく画面の美しさにも力が入っています。Sonyのテレビ「ブラビア」同様のカラーとコントラストの最適化を行うエンジンX1 for mobileを搭載。その他にも4K画質へのアップスケーリングやSDRコンテンツをHDR相当へ変換する機能も搭載されており、画質に配慮されていない動画も美しく表示してくれます。
もちろんリッチなコンテンツにも対応しています。HDR規格、BT.2020の色域、10bit入力に対応しているため、映画など映像に配慮したコンテンツでは製作者の意図通りに忠実に色を表示できます。
また、タッチサンプリングレートは240Hzであり、21:9のワイドディスプレイも相まってFPSゲームとの相性も最高。γチューニングで暗いシーンを意図的に明るく表示し、隠れている敵や障害物の視認性を高める機能もついており、まさに各種コンテンツを楽しめるディスプレイとなっています。
スマホで本格オーディオ体験
カメラやディスプレイのように力を入れているのがオーディオ。
ディスプレイと同じ前面に配置された左右均等のデュアルスピーカーは新構造のフルステージステレオスピーカー。最大音圧がXperia 1 II比で約40%向上した上、ソニー・ミュージックエンタテインメントとソニー・ピクチャーズエンタテインメントと協業して音質を追求。臨場感あふれるオーディオ体験ができます。なお、イヤホンジャック利用時も最大音圧がXperia 1 II比で約40%向上するとのことです。
また、従来の周波数帯域処理に加え、新たにビット深度の拡張にも対応したスケーリング・アップ技術のDSEE Ultimateを搭載。ストリーミングサービスの音楽でもハイレゾ相当の音楽が楽しめます。
他にもより立体的で臨場感あるサウンドになる360 Reality Auidio(本体スピーカーも対応)や360 Spatial Sound(ヘッドフォン利用時かつ対応サービス利用時のみ)等の技術も搭載。本体のスピーカーだけでもより本格的なオーディオ体験ができるモデルとなっています。
このように、Xperia 1 Ⅲはたくさんの独自機能を搭載しています。これは自社、グループ会社で音楽や映画などのコンテンツ制作をしていて、一眼カメラのα、テレビのブラビア、そしてWalkmanや各種オーディオ機器を作っているSonyにしかできない芸当です。
Xperia 1 ⅢはそんなSonyの強みを生かしたSonyにしか作れない最強のスマホと言っても過言ではないでしょう。
ユーザーが必要とする機能は乗っているのか
※ここから先は筆者の意見を含みますのでご了承下さい。
Xperia 1 Ⅲの機能は最強です。魅力的だし正直欲しいです。しかし、買うかと言われたら話は別です。
ポイントはユーザー目線であるかどうか。確かにXperia 1 Ⅲは超多機能ですが、果たしてどれほどのユーザーがそれを求めているのでしょうか。
オートフォーカスが早くて気持ちよく写真が撮れることよりもSNSでたくさんいいねがもらえるような美しい写真が撮れるほうがいい。ディスプレイはきれいな方がいいと思うけど大画面の有機ELテレビのほうが迫力があって美しいと思う。音楽は適当なイヤホンで聞いていていて特に不満を感じていない。そんな人のほうが多いのではないでしょうか。
どうしてもXperia 1 Ⅲがカメラやオーディオで自社の専門スタッフと手を組んで載せられる機能を載せるだけ載せただけであり、ユーザー目線で欲しい機能を一つ一つ載せたものではないと感じてしまうのです。
ニッチでストライクゾーンが狭い機能を寄せ集めた結果、高機能な一方で価格が高くなり手が出しづらい、買ったとしてもすべての機能を使いこなせないみたいなことになるんじゃないかなと思います。
撮る体験だけでは他社には勝てない
先にお伝えしておきますが、ディスプレイやオーディオに関して筆者は門外漢なのでXperiaのカメラについて思ったことをお話します。
私はSonyのαユーザーで、スマホにはカメラ性能も求めているのですがXperia 1 Ⅲのカメラには正直あまり惹かれませんでした。
Xperia 1 Ⅲのカメラの目玉機能は高性能なオートフォーカスやSonyの一眼であるαユーザーに慣れ親しんだUIなど、どの機能も撮影を快適にするものです。Xperia 1 Ⅲのカメラは他社が切磋琢磨している「いかにしてきれいな写真を撮るのか」という舞台から降り、「ユーザーが快感を感じる撮影体験を提供する」方向へシフトしているように感じます。
しかし、いくらXperiaが快適に撮影できても画質も操作感も本職のαに敵いません。αユーザーがXperiaを使う場面はコンパクトな防水防塵筐体を活かしたいとき、高性能ディスプレイでプレビューし5Gでシームレスに転送したいとき等が挙げられますが、よほどのプロでない限り頻繁に過酷な環境で撮影したり10bitディスプレイでみて5Gですぐに転送といった使い方はしません。では私のような一般αユーザーがスマホのカメラに何を求めるか。それは画像処理です。
スマホは一眼カメラにはない高速処理やAI機能を積んだ優秀なSoCが搭載されています。それらを生かしたコンピュテーショナルフォトグラフィーこそがスマホのカメラにあるべきだと私は思います。
Sonyがαの技術を生かしてスマホに一眼カメラの操作感をトップダウン的に取り込むのは自社の強みをよく理解したいい選択だと思います。しかし、長期的な目線で見たら逆にスマホのコンピュテーショナルフォトグラフィーを一眼カメラに持ち込むボトムアップ的方法こそが求められているのではないでしょうか。
幸いなことに一眼カメラでスマホのような高度なコンピュテーショナルフォトグラフィーを取り込もうという動きは今の所ほとんどありません。(強いて言えばMFレンズしか使えないLeica M10-Pでパースペクティブコントロール機能がついたのに驚いたぐらいでしょうか。)僕はSonyがそれをやってくれると期待していたのですが、最近のXperiaをみた限りその線は薄そうで残念です。
Xperiaのカメラは本当にプロも満足できるのか
まだまだ問題はあります。
Xperiaのカメラはかなりニッチな層向けであるというお話をしましたが、その限られたプロ層にとってもXperiaって魅力的なのでしょうか?
問題はセンサーにあります。Sonyは16mm、24mm、70mm、105mmのαでよく使われる4つの焦点距離でレンズを付け替えているような使い心地と言っていますが、もちろんこれは焦点距離ごとにセンサーが違います。
αであればセンサーは同じなので色味や質感、解像感なども同じであり、撮影後の処理は同じプリセットを使えばいいのですがセンサーが違うXperiaはいちいち違う処理をしなければなりません。これって使いやすいですかね?本当にαと同じにしたいのなら画素数だけじゃなくてセンサーも同じものを使うべきだと思います。
もちろん同じセンサーを使うのは設計上難しいのはわかっています。解像感は難しいものの色味や質感であればソフトのチューニングで近いところまで持っていけますし、なんとかなるとは思います。しかし、Sonyが目玉機能であるリアルタイム瞳AFや最高20コマ/秒のAF/AE追従高速連写、60fps AF/AE演算は広角レンズ利用時のみです。センサーは違うものでもいいですが、αを使っているプロユーザーを取り込みたいのであればこういった目玉機能はすべてのカメラ(無理だとしてもせめてAFが大事な望遠カメラだけでもいい)に搭載するべきだと思います。
また、スマホの広角レンズ程度であれば被写界深度はそこまで浅くありません。瞳にAFをあわせる必要はなく、ざっくりと顔にAFが合えばそれで十分だと感じるのは私だけでしょうか。
他にも色々言いたいことはありますがここまでにしておきます。私は写真のプロではないので詳しい実情はわかりませんのでプロの方いましたらぜひご意見をお聞かせください。
みんなのXperiaは死に、プロ又はオタク向けになったハイエンドXperia
Xperia 1 ⅢはSonyにしか作れないし、Sonyの強みを最大限に生かした革新的で魅力的な機種です。しかし、Z5ぐらいまでの誰にでもおすすめできる丁度いいハイエンドXperiaはなくなり、プロや目利き(オタクとも言う)、アーリーアダプター向けのニッチなXperiaになったというのが今回のXperia 1 Ⅲの発表をみて私が感じた感想です。
それだけならまだいいのですが、搭載される機能を見るに、自社の強みを生かそうと考えてとりあえずそれぞれの分野に最高峰の機能を搭載しました感が強く、技術ありきで開発していてユーザー目線になっているのかどうかに疑問が残ります。
もちろん(現時点で)日本未発表のXperia 5 Ⅲがユーザーが欲しい機能だけを載せた「みんなのXperia」として登場し、Galaxy S21シリーズ相当の価格で登場するのであれば大体は杞憂に終わりますけどね...
また、近頃の売上を見るにひょっとしたらユーザーが求めているのはXperia 10シリーズのような手頃なミドルレンジ機かもしれません。でもそうであるならば、自分が追い求めてたZシリーズのような丁度いいハイエンドはもう出ないのかと寂しく感じます。
(本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
個人的には本物の景色をそのまま(暗所での撮影は除く)より精密に高画質で取っていくのがカメラの進化だと思ってたけど、スマホのカメラでは皆、加工(画像処理)して実物とは違う写真を求めているもんなの?