「模倣」を意味する英単語の「Imitation(イミテーション)」。今となっては世界的に知られるようになった大手スマートフォンメーカー「Xiaomi(シャオミ)」は、このImitationによって短期間で大きな成長を遂げました。
Xiaomiが当初iPhoneのデザインや発表会を真似していたのは有名な話ですが、実は躍進の裏にはAppleに留まらず、無印良品やコストコなど、各分野の優れた企業の戦略や哲学を徹底的に模倣した事実がありました。
Xiaomiの日本進出を記念し、具体的にどの会社からどんなImitationをしたのか、同社の模倣戦略に迫ります。
この記事は早稲田大学大学院商学研究科に所属していた徐倩男氏の修士論文「シャオミの模倣戦略の特徴と模倣の順序についての研究ー模倣手本の11社への検討を中心にー」をもとに執筆しています。
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目次
はじめに ー Xiaomi社について
北京小米科技有限責任会社(通称Xiaomi:シャオミ)は2010年4月6日に設立されたモバイルインターネット企業です。機械が大好きで電気街の散策を楽しむ青年だった同社の現CEOの雷軍(レイ・ジュン)氏は創立にも関わったKINGSOFT社でCEOとして長年働いた後、決して若いとは言えない年齢にして再度起業を志し、6人の仲間らとともにXiaomiを立ち上げました。会社設立時の手続きでは「小米」という名前から農業関連の会社だと勘違いされたというエピソードも伝えられています。
同社はスマートフォン加え、スマートフォン向けオペレーションシステムであるMIUI、MiTalkを中心とする事業を進めてきました。2010年に原型となるMIUI(オペレーションシステム)の開発に成功し、2011年には同社初となるスマートフォンであるシャオミ1を発売します。シャオミ1シリーズは通算で790万台を売り上げるほどの人気ぶりとなりました。その後NoteシリーズやMaxシリーズなど、現在のシャオミビジネスを支えるラインナップが登場しています。
シャオミのファンのことを「米粉(ミーフン)」とインターネットでは呼んでおり、彼ら彼女らの存在は模倣戦略において欠かせないものとなっています。
其の一 経営理念における「Imitation」
品質へこだわるということ
雷軍氏が模倣の対象として選んだ企業の一つは、中国国内の老舗漢方薬メーカーの同仁堂です。同仁堂には社訓として「どんなに生産が忙しくても、人手を省かない、品質の維持には、原料に金の糸目をつけない」という言い伝えがあります。この社訓に倣い、雷軍氏は最高の原材料を選ぶことを経営理念の一つとして考えています。
事実、スマートフォンの製造にはクアルコム製のプロセッサやシャープ製のディスプレイを部品として選ぶだけでなく、組立の委託にも鴻海精密集団や英業達という業界トップレベルの品質を特徴とする企業をパートナーに選んできました。雷軍氏は、自身のKINGSOFTでの経験から中国人が品質を重視し始めたことも知っており、品質にこだわっているのです。
其の二 口コミ効果を利用する「Imitation」
質は高く、でもユーザーからの期待は低く保つ
マーケティングの面で雷軍が模倣したという企業の一つは、アメリカで靴のインターネット販売を行っていたザッポスです。ザッポスは利用者の多くが口コミによってサイトを利用したとも言われるほど、マーケティングの費用を抑えることに成功した企業です。同社は「商品を4日で届けると知らせていながら、翌日に届ける」、「返品はすべて無料」などの施策でカスタマーサービスを強化し、ユーザーからの期待を低くコントロールしながら質を高く保つ戦略を取っていました。
製品だけを見てほしい
Xiaomiもこの戦略を真似ていますが、最も良い例は同社の立ち上げ時そのものなのです。会社設立時の時点でIT業界内で知名度のあった雷軍氏は、自身の会社設立が周りからの高い期待を集めてしまうと考えました。そこで、同氏とその仲間らは身分を隠し、ソフトウェアだけを評価してもらおうとしたのです。その結果、雷軍氏を知らずにXiaomi製品の良さに気づいたユーザーがビーフンとなっていったのです。
「なんだ、期待していたよりもすごい良いじゃないか」これが口コミが生まれる元となる「シャオミコミュニティ」のはじまりです。コミュニティの内外で口コミは広がっていき、マーケティングコストを抑えて製品の良さを確実に伝えていくことに成功しました。
其の三 コスト削減のための「Imitation」
日本でも店舗を持ち、食料品などが安く手に入ることで有名なコストコ。コストコとモバイルインターネット会社、関係のなさそうな二社ですが、実はこの企業もコスト削減をするにあたってXiaomiの手本となっているのです。
コストコの経営理念
コストコの経営理念として掲げられているのが「顧客に高品質な優良ブランド商品をできる限りの低価格にて提供する」というものです。安くて有名なコストコについて、この言葉を聞いて疑う人はいないはずでしょう。
この経営理念に沿うために、コストコは利益を限界まで減らし、商品の価格を下げる努力をしています。商品の種類を減らすと共に、陳列もダンボールそのままにして省力化。従業員の数を減らすことで人件費というコストを減らしています。
メーカーから商品を直接仕入れることによる仕入れコストの削減も商品を安さの理由です。
Xiaomiの模倣
Xiaomiも「利益を限界まで減らす」ということを徹底しています。むしろ、「利益をユーザーに渡す」とまで言っていいでしょう。同社はコストコのように商品の種類と従業員の数を減らすことでコストを削減しています。
Xiaomiのスマホのラインナップは一見すると多いものの、Mi A3とMi CC9e、Redmi K20とRedmi K20 Proなど、同じ本体にソフトウェアや一部スペックのみ差し替えてモデルが多く、規模の経済が保たれるようになっています。
加えて、商品の販売を直接Xiaomiがユーザーへ行う形:公式オンラインショップでのダイレクト販売はコストコを習う上で大きなポイントとなりました。
2011年当時の中国国内でのスマートフォン本体価格の相場は3000元以上がほとんどだった中で、Xiaomiはシャオミ1を1999元という価格にすることができています。会社がここまで大きくなった2019年現在も、コストを削ってコスパが良いスマホを販売するというルールは変わっておらず、質が高く価格を抑えた製品を世に送り続けています。
其の四 デザインにおける「Imitation」
シンプルなデザイン・ロゴを目立たせないデザイン
Xiaomiは日本の無印良品のデザインを模倣しており、雷軍氏は「テック界の無印良品」を目指すと公言してきました。
例えば2016年発売のノートパソコン「Mi Notebook Air」は本体の表面にロゴが一切ないことがデザインでの特徴となっており、無印良品の装飾を排したシンプルなデザインに強く影響されています。
今ではシンプルさを特徴としたXiaomiのスマホは減っていますが、Xiaomiの家電やIoTガジェットは変わらずシンプルなままです。
歯ブラシからスマホまで
今や一家に一つは無印良品の製品があってもおかしくないほど日本人の生活に根付いている無印良品。文房具から家具、食べ物までを無印良品という一つのブランドで統一し、幅広いユーザーを確保してきました。
Xiaomiもリュックやソファーまでも製品ラインナップに追加しており、そのビジネス対象はもはやモバイルインターネットだけに収まっていません。低価格で質が良い日常用品は言わばXiaomi製品の入り口。同社の知名度と認知度の向上に一役買っています。
おわりに
telektlistでも度々取り上げられるXiaomiですが、その模倣は単なる真似ごとではなく戦略的なものであり、成長においてかかせないものでした。
Xiaomiは知れば知るほどおもしろい企業です。同社について日本語で執筆された書籍も複数存在しています。この機会に一冊手に取ってみてはいかがでしょうか。
また、Xiaomiは12月9日に日本で何らかの製品を発表すると見られています。来週の発表に期待しましょう。
予定していたよりも早く日本の皆様にお会いできることとなり、 大変嬉しく思っています。12月9日のXiaomi日本参入をお楽しみに!! pic.twitter.com/sJGDdEELbt
— Xiaomi Japan (@XiaomiJapan) December 2, 2019
Source: シャオミの模倣戦略の特徴と模倣の順序についての研究ー模倣手本の11社への検討を中心にー
で、日本語専攻しとる日本人は出て行けばええんか?