「スマホはしょせん道具なんだから、必要以上に高性能で高価なものなんて必要ない」
そう考えるユーザーのニーズに沿うように、スタートアップ企業であることを自認するインディーメーカーUMIDIGIは、価格を抑えてちょうどよいバランスをとったUMIDIGI F1や、5150mAhの大容量バッテリーだけに特化したUMIDIGI Powerといった無駄を排したスマートフォンを提供し続けてきました。
独自規格の高速充電や流行のAIなど、なにかと「足したがる」他社と一線を画すUMIDIGIは、スマホメーカー界の近藤麻理恵のごとく「(人によっては不要な)ときめかない機能を徹底的に削る」ことに注力してきました。
同様の断捨離思想はハードウェアだけではなくソフトウェアにも及んでおり、オリジナルアプリを入れない姿勢も好感が持てます。
今回ご紹介するA5 Proは、そんなUMIDIGIが無駄な機能一切を省きつつ、実売1万円~1万4千円といった低価格でありながら、トリプルカメラを搭載するという一点豪華主義の実現を目論んだ野心作です。
UMIDIGIの野心ははたして成功したのでしょうか? 処理性能を犠牲に、カメラに全フリしたA5 Proの完成度は?
今回も自腹で買ったUMIDIGI A5 Proについて、同じく自腹購入のUMIDIGI F1と比較しつつレビューをお届けしたいと思います。
目次
開封の儀
開封――といったところで、さすがUMIDIGI。スマホメーカー界の近藤麻理恵です。本体のほか、取説とゴム製の安いカバー、SIMピンと充電器以外になにも入っていません。
海外用のACアダプターに合わせてつくった箱に、そのまま日本用アダプターをぶっこんでおくというストイックさです。
充電ケーブルは当然micro USBです。USB Type-Cには「ときめかなかった」のでしょう。Type-CだったUMIDIGI F1から更に断捨離し、ミニマリズムを極めています。
それでも梱包は丁寧で、お礼状を欠かさないところがとても近藤麻理恵っぽいというか、UMIDIGIっぽいところだと思います。
起動
見えづらくて申し訳ないのですが、左が起動直後の英語表示画面で、右が言語で日本語を選択した際の日本語表示画面です。ここで日本語を選択し損なうと英語で最初のセットアップを行うことになり、ちょっと面倒です。
基本スペック
今回購入したものはAliExpressで購入したものではなく、急遽日本のAmazonで購入したものです。
AliExpressのUMIDIGI公式ストアで購入したA5 Proがなぜか誤ってメキシコのゴンザレスさんの元へ送付されてしまったため、キャンセルして改めてAmazonで買うはめになりました。(※嘘みたいですが、事実です。返金もまだなので、UMIDIGIは早く私に返金するように! 追記:7/31無事返金されました)
基本スペック | |
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ディスプレイ | 6.3インチ, 1080 x 2280, LTPS IPSディスプレイ, 400ppi |
サイズ | 156 x 75.9 x 8.2mm, 203g |
システム | |
OS | Android 9.0(Pie) |
Soc | Mediatek Helio P23 |
CPU | Cortex-A53 8コア, 2.0 GHz |
メモリ(RAM) | 4GB |
ストレージ | 32GB, sd_card microSD最大256GBまで |
カメラ | |
メインカメラ | camera_rear 16 + 8 + 5MP, F値/1.8, トリプルカメラ, LEDフラッシュ |
メインカメラ特徴 | camera |
前面カメラ | camera_front 16MP, F値/2.0 |
センサ類 | 指紋認証センサ, 加速度センサ, 近接センサ, ジャイロ, コンパス, 気圧センサ, 顔認証ロック |
機能 | 防水 非対応, イヤホンジャック あり |
バッテリー | battery_charging_fullMicro USB 2.0, 4150mAh |
外観と質感
写真を見ていただくと、下半分にはっきりとウッドデッキの木目が写り込んでいることがわかると思います。背面はガラスコーティングされており、ガラスの内側に挟まれているフィルムは光をよく反射するため、鏡のようになっています。
木目が赤いので分かりづらいですが、今回購入したA5 Proはブルーから淡いピンクにグラデーションがかかっています。Huawei P30 Proと似ているとよくいわれる所以です。
ぱっと見では上がブルーで下がピンクですが、角度によっては上がピンクで下がブルーに見える不思議な色合いです。
本当に鏡のようによく反射します。しばらく触っているだけで指紋がとても目立ちます。
側面は金属フレームになっており、質感や重さ、価格からしてアルミではなくステンレスではないかと思いますが、判断がつきません。
仕上げは丁寧で、見た目に安っぽさはありません。
UMIDIGI A5 Pro vs UMIDIGI F1
サイズはUMIDIGI F1とほぼ同じです。見る人によってはアルミ筐体のF1よりも高級感があるように感じるかもしれません。
厚みもカメラユニットの出っ張りもF1とほとんど同じです。
F1の方が、背面が丸みを帯びているため持ちやすく感じます。
左がA5 Proで右がF1です。どちらも水滴ノッチの6.3インチFHD+液晶ディスプレイです。ベゼルの太さまで完全に同じに見えます。正面からの見た目でどちらか区別できる人は少ないでしょう。
ちなみに重さははっきりわかるほどA5 Proの方が重いです。
期待のかかるカメラ
A5 Proの背面にはF値1.8のソニー製IMX398の16MPメインカメラと、8MPの超広角カメラ、5MPの深度カメラが搭載されています。前面カメラはF値1.8の16MPです。
16MP+8MPのデュアルカメラであるUMIDIGI F1に対して、深度カメラのアドバンテージを発揮できるかが注目です。(※ 48MPのF1 Playではなく、比較したのはあくまでF1です)
黒猫撮影で比較 (vs UMIDIGI F1)
まずは前回のOPPO Reno 10x Zoomレビューでも行った黒猫ベンチマークです。前回も書いたとおり、黒猫はピントが合いづらい上に、毛並みがきれいに写らない、カメラにとっての難敵です。
上の写真が深度カメラのあるA5 Pro、下の写真が深度カメラのないF1です。
上記の写真から猫の耳だけを切り取った画像です。UMIDIGI F1の方がしっかりと猫の毛並みを描画していることがわかります。
また、A5 Proの方は耳周辺の毛先が一部完全に消えてしまっていることが見て取れます。対照的に、F1の方はしっかりと細かい毛まで写っています。
腕前の問題と思われるかもしれませんが、A5 Proで撮影した黒猫の写真はほとんどピンボケしてしまいました。上記の写真はその中で、もっともピントが合った写真です。
一方F1ではきれいにピントが合いました。
上の写真は、F1にはついていない深度カメラがものをいうであろうボケ味をだすステレオモードで撮影した黒猫です。
ピントは合っていますが、背景のボケが不自然な上、耳の周りの細かい毛は完全になくなってしまっています。
夜景撮影 (vs UMIDIGI F1)
UMIDIGI A5 Proには撮影モードの中に「夜景」がありますが、UMIDIGI F1には夜景モードのような気の利いた設定は見つかりませんでした。
嘘のようですが、上の暗い画像が夜景モードで撮影したA5 Proの写真で、下の色鮮やかな方が夜景モードのないF1の写真です。
どちらもフリーハンドで撮影したものですが、これも腕前の問題ではなく何枚とってもA5 Proは上のような暗い写真になってしまいます。そもそもA5 Proにはマニュアルモードがないため、腕前でカバーできる範囲にも限界があります。
ちなみに上の写真はA5 Proの撮影モード「無効」で、手ブレ補正のみで撮影した夜景です。夜景モードとの違いがまったくわかりません。
拡大してみるとA5 Proの方が画像が暗いものの、より細かいところまで写っています。
ステレオモード
ステレオモードは背景ボケを出すための撮影モードです。深度カメラがついたA5 Proでは被写体との距離を正確に測り、きれいに背景をぼかしてくれるものと期待していました。
ところが現実には、写真のある地点から急にボケが始まる不自然な写真になってしまいます。
上の写真は花の周りだけはっきりしているところと、ボケているところがくっきりと分かれてしまっているのがわかると思います。
カメラ機能まとめ
残念ながら、A5 Proのカメラ性能はハードスペック的に上回っているはずのF1よりはっきり劣っていると言わざるを得ません。
逆に、実売2万円弱で16MP+8MPのデュアルカメラにもかかわらず、F1のカメラが意外にきれいに映ることに驚かされました。
ステレオモードは完全に壊れていて機能していません。
処理能力比較(vs UMIDIGI F1)
上の画像はAntutuベンチマークの比較です。左がA5 Pro、右がF1です。
単純なベンチマークでは当然Helio P23のA5 ProはHelio P60のF1に大きく劣ります。
実際使ってみた感触としても、A5 ProではChromeブラウザでのレンダリング処理にもたつきを感じました。スクロールしてから一拍遅れて広告が表示されるため、踏みたくもない広告をタップしてしまうことが何度かありました。
使って使えないことはまったくないのですが、広告の表示が遅れる点は、人によってはストレスを感じるかもしれません。感覚的には5年前のハイスペックスマホを触っているぐらいの描画速度でしょうか。
Operaブラウザを使って広告を非表示にしてしまえば、ストレスはグッと減ると思われます。
また、Wi-Fiのつかみが極めて悪く、同じ家の中でも少しルーターから離れると頻繁に途切れます。しかも一度未接続になるとなかなか再接続しません。
F1ではそのようなことはないため、問題はA5 Proのファームウェアやドライバアプリにあるような気もします。今後の改善に期待したいところです。
良い点
とにかく安いです。見た目は美しく、用途によってはちゃんと使えます。
価格を考慮すれば十分に使えるスマートフォンといえるでしょう。
ただ安いだけでなく、カメラやセンサーにこだわって個性を出そうとしたところは好感が持てます。徹底して無駄を省き、ユーザーに少しでも良いものを届けようという、その大いなる野心は高く評価できるでしょう。
デュアルSIMでありながらMicro-SDにも対応したトリプルスロットというのは、響く人にとっては魅力的でしょう。
残念な点
肝心のカメラが期待はずれでした。よりによって同メーカーのUMIDIGI F1に明確な差をつけられ、F1のカメラの優秀さが際立つ結果になってしまったのは予想外でした。
カメラユニットのハード的にはA5 Proが優位なはずなので、もしかすると今後のアップデートでもっときれいな写真が撮れるようになるかもしれません。
カメラ以外にも、途切れるWi-Fiなど、ソフトウェアまわりの完成度は低すぎます。比較に使ったUMIDIGI F1は本当によくできているだけに、A5 Proにも今後のアップデートを期待したいところです。
現状であれば、私は価格差を考慮してもUMIDIGI F1の方をオススメします。
まとめ-行き過ぎたミニマリズム~或いはやりすぎた近藤麻理恵
最初に書いたとおり、UMIDIGIは近藤麻理恵よろしく「ときめかない機能は削ぎ落とす」メーカーです。そのエッジは鋭く、ありとあらゆるものを無駄と判断して捨て去ります。
一方でメモリやバッテリーは価格の許す限りユーザー目線に立って積もうとする、良心のある企業でもあります。
しかし、それは逆説的に「付け足せる技術がない」とも言えます。A5 Proは、そんなUMIDIGIの「付け足せなかった技術」でいっぱいです。触っていると「ああ、本当はこんなはずじゃなかったんだろうな」という夢の跡が、至るところに目に付きます。
OPPOのReno 10x Zoomは、UMIDIGIが「ときめかない」と削ぎ落としたAIによって、美しい写真撮影を実現しています。一方、UMIDIGIのA5 Proにはハードと夢は詰まっているものの、制御する技術が決定的に足りていません。
結局のところUMIDIGIは、ソニー製のセンサーを積んではみたものの、それを制御するだけの技術がないのでしょう。
UMIDIGIはスタートアップ企業であることを自認していることからもわかるように、同じ中国でも他の大手メーカーとは違い、その商品はまだまだKickstarterのような未完成品に近いものです。
消費者も、安さと同時に夢を買っているようなものだということを理解する必要があるかもしれません。
UMIDIGI A5 ProはUMIDIGIが得意とする「無駄を削ぎ落としたスマホ」ではありません。むしろ「必要なものが足りていないスマホ」というべきでしょう。UMIDIGIはあきらかに削ぎ落としすぎています。
UMIDIGIはA5 Pro発売前のメールで、自社の理念を次のように語っていました。
「質の高い技術がもたらす幸福をすべての人に届けるため、優れた顧客体験と手頃な価格で感動的でプレミアムな製品を生み出している」
その理念をUMIDIGIが失わない限り、私は今後もUMIDIGIを応援するでしょう。
今回のA5 Proは、手頃な価格にこだわったあまりでしょうか、私の目には少々やりすぎた近藤麻理恵に見えてしまいました。
ソフトの良し悪しはスペック表では見えません。しかし、たとえ「目には見えず」まったく「ときめかない」としても、スマホには断捨離してはいけないコストというものがあるのです。
近藤麻理恵言いたいだけだろ感