昨年9月頃に発売されたSonyのノイズキャンセリング搭載BluetoothヘッドフォンのWH-1000XM4。
Sony最高峰の音質、Bluetoothを使ったワイヤレス接続、ノイズキャンセリング機能といった基本的な性能に加えて近接センサーによる装着の有無の確認、マルチポイント接続による2台同時待ち受けなどのガジェットらしい機能が搭載されたフラッグシップモデルとなっています。
今回はその「WH-1000XM4」を手に入れましたのでレビューしていきます。
良いところ
- 所有欲を満たすデザイン
- ソフトで軽い装着感
- 安定の高音質と強化されたノイズキャンセリング
- 2台同時待ち受けのマルチ接続が超便利!
- 近接センサー搭載で完全ワイヤレスイヤホンに負けない使い心地に
悪いところ
- スピーク・トゥ・チャットは使いにくくて結局オフにした
- DSEE Extremeはバッテリーを食いすぎる
- アダプティブコントロールはもうちょっと自然だと嬉しい
その他のポイント
- apt-Xとapt-X HD非対応だがなくても気にならない
目次
ファッションアイテムにもなる洗練されたデザイン
まずはじめにデザインについてみていきましょう。
SonyのWH-1000Xシリーズは今回で4機種目。M2→M3の変化と比べるとそこまで大きくデザインに変化はないものの、最新機種のM4はM3よりマットな質感になったことで光の反射が抑えられ、落ち着いたデザインとなっています。
今回私はプラチナシルバーを選択しました。プラチナシルバーはシルバーと言うよりかはベージュに近いような、落ち着いたカラーとなっており、大人な印象を受けます。
また、ガジェットらしさが薄れるカラーですのでファッションとしても取り入れられるのもポイント。「黒じゃ面白くない、でも目立ちたくもない」みたいな人におすすめです。
ロゴとマイク周りにはゴールドカラーがあしらわれていますがいやらしさはなく上品で高級感を感じます。
その一方で見えにくいボタン、端子類はシンプルな作りとなっています。
バンド部もシックでシンプルな作り。型番もうすく、目立たないように印字されています。
WH-1000XM4は高級感のあるケースも付属しています。ケースにはヘッドフォン本体だけでなく、付属品の
- 有線ケーブル
- USB-A to USB-Cケーブル(短)
- 飛行機用のアダプター
も入るようになっています。
クリアではっきりとした音質
オーディオ機器でもっとも肝心なのが音質ですが、さすがはSonyのフラッグシップヘッドフォン。文句の付け所がありません。
WH-1000XM4は万人に受け入れられる色付けのないクリアな音質です。特に中-高音域はそのような傾向が見られると感じました。低音域は中-高音域よりも厚みがありますが決してズンズン来る感じではなく、あくまでアーティストの意思をありのまま伝えるような傾向にあります。総じてバランスが良く、クリアではっきりとピントが合ったような気持ちのいい音がなります。
どんなデバイスでもハイレゾ級にするDSEE Extreme
WH-1000XM3には音源や圧縮音源をハイレゾ相当の高解像度音源にアップスケーリングする技術「DSEE」が搭載されていましたが、WH-1000XM4ではより強化された「DSEE Extreme」が搭載されています。
AI技術の最先端であるディープ・ニューラル・ネットワーク(DNN)技術によりボーカルと楽器類の音域を認識し、それぞれに最適なアップスケーリングを施すことでより解像度の高い音楽を流すことができるようになります。
実際にDSEE Extremeをオンにすると一つの面だった音楽が、ボーカルが立体的に浮き出て臨場感ある音楽に変わりましたがその差は微々たるもの。後述しますがバッテリー持ちが悪くなることを踏まえると積極的に使うの憚られるものの、ストリーミングサービスやSBCなどの古いコーデック利用時でも高音質で音楽を楽しめます。
DSEE Extremeはソニー・ミュージックエンタテインメントという音楽業界とのコネクションをもつSonyならではの技術。WH-1000XM4にしかできない素晴らしい機能だと言えるでしょう。
aptX, aptX HDなどのコーデックに非対応
音質で気になるのがWH-1000XM3は対応していたaptX、aptX HDに非対応であること。
今回、Qualcommのコーデックであり多くのデバイスで使えるaptXに非対応であることは多くの1000Xシリーズファンががっかりしたポイントだと思いますが、私はなくても問題ないと感じました。
理由としては最近のほとんどのAndroidスマホはLDACにも対応しているから。LDACは遅延も少なくビットレートの変更にも対応するし、aptX以上に優秀だしLDACで十分だと思います。
また、iPhoneなどLDACが使えないデバイスではDSEE Extremeでアップスケーリングが可能。そういった点を踏まえるとQualcommにライセンス料を払ってまでaptXを搭載する必要はないと判断したのもうなずけます。
唯一残念なのは遅延。aptX AdaptiveやaptX Low Latencyなどと比べると遅延の点ではまだ負けていると思います。まぁ遅延を気にするなら有線を使えば問題ないですけどね。
ソフトな装着感で何時間でもつけられそう
WH-1000XM4は耳全体に覆いかぶさるオーバーイヤーヘッドフォンです。そんなオーバーイヤーヘッドフォンで気になるのは装着感。せっかく高音質でも長時間の装着に耐えられないのであれば超マイナス点です。
WH-1000XM4の装着感は一言でいうとソフト。空気のようとまではいいませんが非常に柔らかくて数時間の着用でも耳が痛くなることはありませんでした。この装着感のポイントはイヤーパッド。
今回、イヤーパッドの形状も見直しており、耳に当たる面積を約10%増やすことで側頭部にかかる圧力を分散。より柔らかな装着感を実現したことで長時間リスニングでも快適にお使いいただけるようにしました。また、合わせてヘッドバンドの形状もより頭の形状に沿うかたちに最適化し、ホールド感を大きく高めています。装着時のシルエットもより美しく感じていただけるはずです。
WH-1000XM4開発者インタビューより
確かに装着時にイヤーパッドがしっかりと潰れ、耳に密着する感じがします。顔との接触面積が大きくなることで遮音性が上がるだけでなく、装着感も大きく改善されているようです。
ちょっと気になるのが暑さ。冬場はいいのですが、これから訪れる夏場で接触面積が増えるのは暑苦しくなりそうです。
また、軽量であることも装着感に影響しています。WH-1000XM4は近接センサーなど新たなパーツが追加された一方で、すべての内部構造を再設計することでM3よりも1g軽い254gとなっています。本体が軽いことで頭部への影響も最小限に抑えられています。
以前私が使っていたWH-1000XM2は275g。WH-1000XM4は装着して見るだけでも明確に軽く、ソフトです。実際にM2は3時間使ったあたりから耳が痛くなることがありましたが、M4は5,6時間使っても大丈夫でした。
強力かつスマートなノイズキャンセリング
WH-1000XM4のノイズキャンセリングはM2比で確実に進化しています。
WH-1000XM4ではM3にも搭載されていた高音質ノイズキャンセリングプロセッサー「QN1」と、新たに搭載された高性能BluetoothオーディオSoCの連携により毎秒700回のセンシングを処理し、ヘッドホンの内側と外側に配置した2つのマイクを用いてリアルタイムに環境測定をすることでより高精度なノイズキャンセリングを実現しています。
M3との比較はできていませんが、電車や飛行機、エアコンなどのの低音域ノイズに対して強かったM2に対して人の話し声などの高音域も低音域ほどではないにしろM2以上にしっかりと除去してくれます。
オフィスや学校の中など人の話し声が多い環境でもノイキャン+音楽再生で完全に自分の世界に入り込むことが可能。素晴らしいです。
また、ノイズキャンセリング機でよくあるのが「いかにもノイズキャンセリングしてます感」。ノイキャンオンでキーンとかぼーっというホワイトノイズがのるあれですが、WH-1000XM4はそのノイキャン感が非常に薄い。AirPods Proほど自然ではないのですがかなり上出来で、ソフトな装着感と相まってデジタル耳栓代わりにも使えそうです。
自動的に環境を変化させるアダプティブコントロール
ノイズキャンセリングの本質は音楽以外の音を完全にかき消すことではなく自分が望む音空間を生み出すことにあると私は考えています。
集中して何かに取り組むときは雑音はないほうがいいし、外で歩きながら使うときは生活の中のBGM程度にノイキャンを抑えてくれたほうがいいです。
その点、WH-1000XM4はかなり上手だと思います。
WH-1000XM4は本体に内蔵されている加速度センサーを用いることでユーザーの状態を検知し、ノイズキャンセリングを最適化するアダプティブコントロール機能が搭載されています。
これにより、例えば止まっているときは音楽に集中できるようにノイズキャンセリングが最大に、歩いているときは環境音を少し取り込めるようにノイズキャンセリングが中程度にといったように自動的に変化します。
また、スマホに専用アプリ「Headphones Connect」をインストールし、スマホのGPS情報を利用することで自宅ではノイズキャンセリングを最大に、オフィスでは中程度にといったことも可能。
これはもちろんノイズキャンセリングだけでなくイコライザーにも適応可能であり、環境に合わせて音の質を変えることができます。
それぞれの環境に対してユーザーが望む最適な聴覚環境を提供するという「デバイスと人間の境界を薄くする」体験が非常に新鮮で、実用的だと感じました。強いて言えば切り替えのタイミングがはっきりとしているからよりじわじわとゆっくり切り替えてくれたほうが境界が透明になったかなと思います。
バッテリー持ちは(DSEE Extremeをオフにすれば)長持ち
バッテリー持ちは非常にいいです。WH-1000XM4は満充電で公称30時間の音楽再生が可能となっていますが、実際そのぐらい長持ち。一日数時間の利用であれば5日から1週間ほどに一回の充電で十分です。1-2日しか持たず、こまめな充電が必要な完全ワイヤレスイヤホンと比べて非常に快適なポイントですね。
また、WH-1000XM4は1.5A出力に対応。約10分の充電で最長5時間の音楽再生が可能です。充電端子はイマドキのUSB-C。スマホの充電器でさっと充電できます。
バッテリー持ちの課題点はアップスケーリング技術のDSEE Extreme。チップのパワーが必要なDSEE Extremeをオンにすると体感で2倍の速度でバッテリーが消費されていきます。DSEE Extremeでちょっと高音質になるのとバッテリー持ちが2倍になることを天秤にかけるとオフにしたほうが賢いと思いますが、せっかくのSony独自機能が使えなくなるのは残念です。
思った以上に操作しやすいタッチパネル
WH-1000XM4は音楽の操作にタッチパネルを採用しています。
M2はタッチパネルが反応しない、不意に触って誤作動を起こす事がよくあっていい印象がないのですが、WH-1000XM4のタッチパネルはそのような誤作動がほとんどありませんでした。
また、タッチノイズがひどい完全ワイヤレスイヤホンのタッチパネル操作と比べるとイヤーパッドのあるヘッドフォンはタッチ操作と相性がいいです。操作内容も直感的で非常に使いやすくなったなと感心しました。
2台同時待ち受けでシームレスに使える
WH-1000XM4は新機能として2台同時待ち受けが可能です。この機能が非常に便利で、スマホとパソコンと同時に接続することで、
- パソコンで音楽を再生、シームレスにスマホで電話の受信が可能
- 自宅ではパソコンで音楽を再生、設定で接続先を変更することなく外出中にスマホで音楽再生
- パソコンで音楽再生中にスマホアプリ「Headphones Connect」でノイキャンレベルやイコライザーの調整
といった操作が可能になります。
注意しなければならないのがマルチポイント接続時はLDACが利用できないこと。この機能利用時にはSBC、AACといったコーデックしか使えません。音質が気になるときはDSEE Extremeをオンにしましょう。
近接センサーで装着検出が可能
WH-1000XM4では新たに近接センサーと加速度センサーが搭載されたことによってヘッドフォンが装着されているかどうかが検出できるようになりました。
ヘッドフォンが外れたときは自動で音楽が停止しタッチパネルも無効化、さらに一定時間経過後で自動的に電源がオフとなります。なお、電源がついていれば再度装着時に自動で音楽が再生されます。
これがなかなか優秀で高精度。例えばヘッドフォンはよく首にかける事があると思いますが、その状態でもしっかりと未装着判定となります。
AirPodsなどの完全ワイヤレスイヤホンでは当たり前となりつつある近接センサー。ヘッドフォンにも搭載されることでよりスマートに、自然に使えるようになる良い機能です。
使い所が難しいスピーク・トゥ・チャット
従来のWH-1000Xシリーズに搭載されていた右耳側のタッチパネル全体を触っている間に一時的に音量を絞り、周囲の音を聞こえやすくしてくれる「クイックアテンションモード」に加えて、自分の発した声をトリガーにする「スピーク・トゥ・チャット」が搭載されました。
この機能は新開発した会話検知アルゴリズムで解析してユーザーの発した声とそうでない音を判別してくれるため、環境音で誤作動するといったことはなく、非常に面白くて興味深い体験でしたが、そうだとしても使いどころがありませんでした。
というのもこれがほしいシーンよりもいらないシーンのほうが多いから。
よくあるのが集合マンションで社交辞令の「こんにちは」で動作してしまうこと。復元するにはイヤホンの操作か最低でも15秒以上待つなければなりません。あとは独り言にも反応します。
カフェやコンビニなどで両手がふさがっているときなどを想定して作られたこの機能ですが、両手がふさがっていないならヘッドフォンをずらすほうが簡単だし、両手がふさがっているとしても元に戻すためにヘッドフォン本体を操作しなければならないというちぐはぐ仕様が仇となっています。
また、自動で元に戻る時間の調整も可能ですがそれが短くても15秒から。すぐに反応する割にはもとに戻るまでにかかる時間が非常に長く、音楽の質がコロコロ変わってストレスだったので結局オフにしました。
例えば新開発のアルゴリズムとやらでユーザーが発した声とそうじゃない声がわかるのであれば相手の声が途切れたらもとに戻るとかできるだろうし、それができなくてもせめて5秒とか短い時間の選択肢もあると良かったかなと思います。
まとめ:これ以上の機能はいらないのでは?と思える名機
WH-1000XM4は高音質、ノイズキャンセリング、ワイヤレスと近年のオーディオ製品に求められる基本的な機能をカバーした上で近接センサー、マルチ接続、スマートなノイキャン/外音り込みといったこれから必要とされる機能も盛り込んだ意欲的なヘッドフォンです。
マルチ接続でもLDACが使えるようにしてほしい、もっと自然にノイキャン/外音り込みを変化させてほしい、もっとスマートに状況判断してスピーク・トゥ・チャットをオンにしてほしいなど、個々の機能でさらなる洗練がほしい点はあるものの機能としては現状これ以上必要ないのでは?とさえ思える高機能ヘッドフォンに仕上がっていると思います。
人が最も多くの情報を取り込むのは視覚からですが、その次に多いのは聴覚。いままでのイヤホン、ヘッドフォンはそこに音楽を単純に足すものでしたが、WH-1000XM4は強力なノイズキャンセリングとスマートな調整により、日常の環境と音楽の境界を薄め、いつでもどこでも自分の望む最適な主観的空間を生み出すことができます。
ガジェットではなく聴覚の調整ができる拡張デバイスとなりうるヘッドフォン。WH-1000XM4はそう言っても過言ではないと思います。
WH-1000XM4は発売当初こそ44,000円と非常に高価でしたが、発売してから半年以上たった今、最安で3万円台前半で入手可能です。家電量販店でもよく展示されていますので興味がでた方は是非実機を試してみてください。
【追記】海外の小売店で新たにホワイトカラーが登場することがリークされました。参考までにどうぞ。
#Exclusive WH-1000XM4 in White
Uh... I don't know why it's like this but here you go 🙂
Thanks to @linuxct pic.twitter.com/K7VcUHEFC4— JPH (@justplayinghard) April 5, 2021
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