ここ数年、スマートフォンのディスプレイで有機EL採用機種が増えてきました。近頃はスマートフォンにとどまらず、テレビやパソコンにも普及しつつあります。
そんな有機ELですが、有機ELを搭載していることはメーカーもいいところとして大々的に取り上げています。今回の記事は、最近採用が進んでいる有機ELと昔からよく使われているIPS液晶を比較、まとめたものになります。スマートフォン選びのときに是非参考にしてください。
目次
ディスプレイの原理
有機ELとIPS液晶を比較する前に、それぞれの原理を簡単に理解しておきましょう。
IPS液晶の原理
まずは既存の(というよりかは先発の)技術であるIPS液晶から原理を解説します。
そもそも液晶とは固体と液体両方の性質を持った分子のことです。特定の方向に配向することで分子が整った結晶のような声質を持つこともあるし、その配向が崩れると液体のようになります。また、液晶の配向方向は電圧をかけることでコントロールすることができます。液晶ディスプレイはこの特定の配向を向く液晶分子を利用した技術です。
さて、以下の図がIPS液晶の仕組みを簡単に解説した図になります。
※偏光板と液晶分子の間には透明電極があり、電圧がかけられるようになっています。
白色LEDを用いたバックライトが一番下にあり、その次に偏光板があります。
※偏光板とは、光を一つの方向に振動するもののみに絞る板のことです。
光はその次に液晶のある層を通過しようとするのですが、液晶分子を偏光板の方向と垂直方向に配置すると光がシャットアウトされます。一方で、液晶分子に電圧をかけて向きを90°ずらせば光はそのまま通過することができます。このようにして、液晶分子にかける電圧で光の量を調整します。
1ピクセル単位で上の図のようになって特定の色が表現される。
偏光板と液晶分子で制御された光の先にRGBフィルターを置き、それぞれの色の光の量を調整することでディスプレイになるのです。
【コラム】 VA, TN, IPSの違いは?
ディスプレイはほかにもVA液晶、TN液晶があります。これらの違いは、液晶の配向の向きと偏光板の向きです。それぞれにそれぞれの良いところがあります。VA, TN液晶は液晶が縦に配向している状態があるため、強く押すと液晶の配向が崩れやすく、「ヴァッ...」となりやすいです。スマートフォンではタッチ操作があるため、これらの液晶はあまり採用されていません。(他にもIPS液晶は色の再現性がいいためなどの理由もあります。)
VA, TN液晶はIPS液晶よりもコントラスト比が高かったり応答速度が高かったりなどのメリットが有るため、PCのディスプレイなどのタッチ操作のないディスプレイに利用されます。
有機ELの原理
次に有機ELの仕組みを説明します。
有機ELのELとはElectro Luminescenseの略で、有機物に電圧をかけることで発光する現象のことです。この現象を利用したディスプレイパネルのことを有機ELディスプレイ、略して有機ELとか、有機物を利用したLEDディスプレイ、つまり、Organic Light Emitting Diode Display、略してOLEDとよんだりしています。
有機ELに使われる有機物の例
使う有機物によって発光する色も決まっており、素材を選んでRGBを表現します。
発光する色は有機分子の共役二重結合の長さと関係しており、共役二重結合がながければ長いほど長波長側(赤より)の色を出し、短いほど短波長側(紫より)の色になります。これ以上細かいことを言うと有機化学の授業になってしまうため、よしておきましょう。
さて、以下の図が有機ELの仕組みを簡単に解説した図になります。
_人人人人人人人_
> 突然の3D <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y
といってもあまり説明するものもないですね。電圧をかけて発光する素子に、適当な電圧をかけることでRGBそれぞれの色の強さが変わり、ディスプレイになります。
なお、上のイラストはRGBに光る素子を使っていますが、白色に光る素子にIPS液晶のようにRGBフィルターをかける方式もあります。
有機ELとIPS液晶はどこが違うの?
それでは、本題の有機ELとIPS液晶の違いを見ていきましょう。
①黒の表現が違う
まずは、黒の表現が違うところです。
左がIPS液晶の黒、右が有機ELの黒
仕組みから見ても分かる通り、IPS液晶はバックライトの光を液晶で消す方式です。そのため、完全には消しきれずに少し光が漏れ出てしまいます。そのため、黒がすこし灰色っぽくなってしまいコントラスト比が落ちてしまいます。
※コントラスト比とは、真っ黒を表示したときの画面の輝度と真っ白を表現したときの画面の輝度の比のことです。大きければ大きいほどコントラストが大きくなります。
一方で、有機ELは電圧をかけずにそもそも光らない状態が黒です。そのため、光が漏れ出るといったこともなく、黒がほとんど漆黒で表現できます。これが有機ELディスプレイが美しいと言われる所以です。
②発色が違う
次に、発色が違います。
有機ELとIPS液晶の色の見え方の違い(イメージ)
有機ELは発光素子の光をほとんどそのまま届けているため、そのままのきれいな色が出ます。
一方で、IPS液晶はカラーフィルターや偏光板など、様々なフィルターを通すため、有機ELと比べると発色がほんの少しだけ劣ります。
とはいえ、IPS液晶は液晶の中でも色の再現性、sRGBカバー率の高いものも多く、色が美しくないわけではありません。あくまで有機ELと比較すると少し劣ってしまうものがあるだけであり、有機ELよりも美しいIPS液晶があることもあります。
③消費電力の性質が違う
次に、消費電力の性質が違います。
手抜きとか言わんといてください...
IPS液晶の最も大きなバッテリー消費源はバックライトの光です。スマホの輝度調整でこのバックライトの光の強さを調整することができ、それに応じてバッテリー消費量も変わります。
一方で、有機ELは、黒は全くバッテリー消費をせず、白はすごくバッテリーを消費します。輝度をいじると黒以外のところのぶんだけバッテリー消費が多くなります。そのため、黒い壁紙を使えばバッテリー消費が抑えられます。
これは各社がダークモードを開発する理由でもあります。詳しくはこちらの記事を参考にしてください。
全体のバッテリー消費量を比較しても、そこまでバッテリー消費量が違うという話は聞いたことがありません。そのため、一般的な状況では大きな差はないと思われます。しかし、OSレベルのダークモードの導入や、各アプリでダークモードを導入することで有機ELの方はバッテリー消費が大きく抑えられるようになるでしょう。
④ディスプレイの寿命が違う
4つ目は、ディスプレイの寿命です。
有機ELは、有機物にエネルギーをかけて発光しているため、同じ電圧を長時間かけ続けたり、長期間使い続けると色がくすんでしまったりして発光が制御できなくなります。
有機ELの経年劣化のイメージ
そのため、焼き付きという特徴的な劣化があります。家電量販店に適当に展示されている有機ELディスプレイのスマホによく残っている跡などがいわゆる焼付きです。
一方でIPS液晶は発光はバックライトであるため、焼付きなどの劣化に強く、寿命が長いです。
しかし、有機ELも工夫して、劣化がないように使用すれば、2年は美しいまま使えると思います。これからの焼き付き対策技術に期待ですね。
⑤メーカー、価格、製造難易度などが違う
最後はユーザーとは関係ない部分になります。
スマホ用の有機ELディスプレイはほとんどがSamsung製であり、Samsung一強状態になっていますが、液晶ディスプレイは、SamsungだけでなくLG, Sharp, JDIなど様々なメーカーが製造しています。
価格に関しても有機ELディスプレイは製造難易度が高いためか液晶ディスプレイよりも高価です。ベゼルレス、ノッチ付き、そして今流行りの穴あき式など様々な形式のディスプレイを製造するとなると更に値段が高くなります。一方で、液晶ディスプレイは競争も激しい為とても安価に導入できます。
こういった事情もあるので、有機ELディスプレイ搭載モデルは高価なハイエンドモデルに搭載されるのでしょうね。
まとめ
まとめると、有機ELディスプレイのほうが黒の表現が良く、発色もいい上に、バッテリー消費も抑えられるが、そのかわり寿命が短く、高価である、ということになります。
有機ELの欠点である寿命の短さ、そして製造難易度の高さゆえの値段の問題は各社の企業努力により解消傾向にあります。これからの時代、より美しい有機ELのほうが主流になっていくと思われます。
以上、有機ELとIPS液晶の違いでした。他にもこんなところも違うよ!とかその他意見などがございましたらコメントください!
言及がないところで言えば視野角、残像、外光に対する強さ、照度あたりですかねー。