世界から見ればマイナーな日本の周波数帯にも広く対応し、技適取得で日本のユーザーに広く受け入れられたUMIDIGI F1のヒット以来、足踏みの続いている印象のUMIDIGI。果たしてUMIDIGIは安いだけのメーカーなのか。UMIDIGIの試金石となる現在の到達点、UMIDIGI Xを実機レビュー。
前回のレビューUMIDIGI A5 Proレビュー【実機でUMIDIGI F1と徹底比較】でも書きましたが、私はUMIDIGIのプロダクトデザイン哲学を「不要なものを徹底して削る断捨離思想」だと思っています。不要なものを削り、バッテリー容量やトリプルカメラといった顧客が求めるハードウェアに全振りするのがUMIDIGIです。
今回UMIDIGIは「何を削り」、「何を付け足そうとした」のかレビューを通じて検証していきます。
なお、UMIDIGI Xは現在Aliexpress公式ストアで販売中。セール中の価格は180ドル(約2万円)となっています。
目次
化粧箱・付属品
いつものように必要最低限のものが入ったUMIDIGI Xの箱です。本体のほか、取説とゴム製の安いカバー、SIMピンと充電器以外になにも入っていません。
スペックが記された画面保護シートに、UMIDIGI Xの「X」の意匠を施すためとはいえデカデカと「バツマーク」をプリントしてくるあたり、さすが外国製品です。
海外では「バツ」にネガティブなイメージがないとはいえ、日本人には真似し難いセンスでしょう。こういうのをみるといかにも輸入製品という感じがして嬉しくなります。
micro USBだったA5 Proに対して、UMIDIGI XはUSB Type-Cケーブルが入っています。
基本スペック
基本スペック | |
---|---|
ディスプレイ | 6.35インチ, 1548×720, 有機ELディスプレイ, 268ppi |
サイズ | 158.6 x 75.6 x 8.1mm, 195g |
システム | |
OS | Android 9(Pie) |
Soc | Mediatek Helio P60 |
CPU | 4xCortex-A73, 2.0GHz & 4xCortex-A53, 2.0GHz 8コア, 2.0 GHz |
メモリ(RAM) | 4GB |
ストレージ | 128GB, sd_card microSD最大256GBまでSIM2スロットを使用 |
カメラ | |
メインカメラ | camera_rear 48+8+5MP, F値/1.79, トリプルカメラ, ウルトラワイドモード(歪み補正あり), 夜景手持ち撮影, AIシーン認識, AIビューティー, ポートレートモード, フェイスキュート, パノラマモード, プロモード, HDR, 4in1ライトフュージョン, デュアルLEDフラッシュ, リアルタイムフィルター |
メインカメラ特徴 | camera |
前面カメラ | camera_front 16MP, F値/2.0, AIビューティー, フェイスキュート, セルフィーカウントダウン, 顔認識 |
センサ類 | 画面内指紋認証センサ, 加速度センサ, 近接センサ, ジャイロ, コンパス, 気圧センサ, 顔認証ロック |
機能 | 防水 非対応, イヤホンジャック あり |
バッテリー | battery_charging_fullType-C 1.0, 4150mAh |
起動
日本語に対応しているため、最初に言語選択で日本語を選択すれば問題なく日本語化されます。
なんの問題もなく起動するかと思いきや、トラブル発生。セットアップ中にWi-Fiに接続したところ、上の画面を見ていただいたとおり「スキップ」を選択するか、Wi-Fi接続設定以前に戻る以外に選択肢がなく、Wi-Fi設定できませんでした。
Wi-Fiには起動後に設定から接続できるので大きな問題ではありませんが、初期セットアップで古いスマホからアプリやデータを乗り換えようとする場合には致命的な欠陥です。
外観と質感
外観でまず感じるのはUMIDIGI A5 Proとそっくりということです。よく見るとカメラの形状や背面指紋認証センサーの有無など違うのですが、加工の仕方や色味がまったく同じです。
背面はブルーとピンクの美しいグラデーションです。背面の一部は鏡のように光を反射し、とにかく指紋がベタベタ目立ちます。
有機ELディスプレイを採用したとはいうものの、下部ベゼルの厚みはMi 9T Proと比較すると1.5倍ぐらいの厚みがあり、外観に有機EL感はあまりないかもしれません。
本体重量はA5 Proから8g軽い195gですが、持ってみると背面が真っ平らなのも手伝ってか、重みを感じます。幅も75.6mmあり、手の小さな人には持ちやすいスマホとはいえないでしょう。
UMIDIGIが「X」に付け足した機能を検証
ディスプレイ内指紋認証は微妙
UMIDIGI Xは同社初の有機ELディスプレイを採用したスマートフォンです。UMIDIGI XはGoodix社の光学センサーを搭載しています。3Dプリントで指紋をマッピングする超音波スキャナーと比べ信頼性は劣るものの、高速なのが特徴です。
私はディスプレイ内指紋認証を採用した機種としてはMi 9T Proを普段から常用しています。Mi 9T Proを使用するようになってから、まだ一度も指紋認証に失敗したことがありません。
ところが、UMIDIGI Xは使用中に何度も「認識されませんでした」と表示されるなど、指紋認証に失敗することがありました。5回連続で失敗し、PINを入力するしかなくなったこともありました。なにが原因なのかはわかりませんが、少しがっかりさせられるところです。
また、あくまで個人の感覚ですが、Mi 9T Proと比較すると、ロック解除までの時間がほんの一瞬だけ遅いような気がします。指紋の認識に若干時間がかかっているのかもしれません。
有機ELディスプレイ
上の画像は暗闇の中で真っ黒な画像を表示したUMIDIGI X(左)とHuawei Mate 9(右)です。液晶のMate 9はうっすら黒い画面もバックライトによって明るくなっていますが、有機ELのUMIDIGI Xは黒い画像部分はまったく発光していません。
トリプルAIカメラ
風に揺れる花の撮影
UMIDIGI XとMi 9T Pro(DxO Mark)で写真を比較してみました。どちらもAIと手ぶれ補正をオンにした上で撮影しています。
まず驚いたのは、かなり風の強い日に撮影したにも関わらずUMIDIGI Xは常に5センチほど風で揺れ続ける花に、すべての写真に適切なシャッタースピードでピントを合わせてきたことでした。ピンぼけの写真は一枚もありませんでした。
その点、Mi 9T Proではピンぼけの写真が多く、上の写真はマシな方ですが雄しべや雌しべはボケてしまっています。きっちりピントが合った写真は5枚に1枚といった割合でした。ちゃんとピントが合った写真では、Mi 9T Proのほうが鮮明で美しいのですが、意外な結果でした。
もちろんMi 9T Proのカメラアプリにはプロモードがありますから、腕に覚えのある方はシャッタースピードも自分で設定すればよいことなので、AIに頼る必要はないかと思われます。
黒猫撮影
「かつてこれほど黒猫を美しく撮影できるスマホがあっただろうか!」
毎回レビューのたびに行っている黒猫ベンチマークですが、こと黒猫の撮影に関してはUMIDIGI XはOPPO Reno 10x Zoom(実機レビュー)にも劣らない美しい写真が撮影できます。
黒猫はスマホのカメラでは被写体として認識されづらく、気ままに動くのでなかなかピントが合わわずピンぼけの黒い物体になってしまうことが多いのですが、UMIDIGI Xは後述するステレオモードを除くすべての写真で黒猫の毛並みが美しく撮影できました。
何気ない写真ですが、上のようなわけのわからない姿勢をとった黒猫の手足にもちゃんとピントが合っているうえ、きれいに毛並みも写し撮っているというのは、なかなかすごいことです。
これが2万円台のスマホのカメラだとは、にわかには信じがたいほどで、5万円台のRed Magic 3のカメラより、はるかに素晴らしいです。
Mi 9T Proのカメラとの比較
先ほどの花と同じく、黒猫でもMi 9T Proはなかなかピントが合いません。上の写真2枚が同じ姿勢なのを見ればおわかりの通り、黒猫はじっとしているにも関わらず、Mi 9T Proではピントが合わないのです。
Mi 9T Proはきれいにピントが合えばきれいな写真が撮れるのですが、やはりピントが合うのは5枚に1枚というところです。ちなみに模様の違う錆猫ではMi 9T Proもちゃんとピントが合いますので、Mi 9T Proは黒猫撮影が苦手なのでしょう。
上の2枚を見比べれば、UMIDIGI Xは黒猫のまつげまで鮮明に写していることが判ると思います。
このUMIDIGI XとMi 9T Proの差がどこからくるものなのかは判りかねますが、OPPO Reno 10x Zoomも黒猫の撮影が得意だったことから、AIが黒猫をちゃんと「黒猫」であると識別しているのかもしれません。
UMIDIGI Xのカメラは、ひとまずここまでは優秀といえるでしょう。
スーパーナイトモード
さて、問題の「スーパーナイトモード」です。なにが問題なのかといいますと、UMIDIGI Xにはスーパーナイトモードが搭載されると聞いていたので、私は当然カメラアプリに「夜景撮影モード」が存在するものだと思っていました。ところが、この「夜景モード」がカメラアプリのどこを見廻しても、みつからないのです。
UMIDIGIはAIがシーンを認識すると説明していたため、もしかしたらAIが夜景を自動認識してスーパーナイトモードで撮影するのか?と解釈し、とりあえず夜景撮影を行っています。
確かに夜景モード風に撮影はできていますが、特にAIが「夜景」と認識したサインはなにもディスプレイに表示されませんでした。
ほかのスマホで撮影した写真と比較してみます。
UMIDIGI XとMi 9T Pro以外は撮影日時が異なります。このうち夜景撮影用のモードがカメラアプリに存在するのはMi 9T Pro、UMIDIGI A5 Pro、OPPO Reno 10x Zoomです。
OPPO Reno 10x Zoomの写真の美しさはもはや別格ですが、夜景モードのあるUMIDIGI A5 Proが一番ダメで、まったく夜景モードの意味がありません。Mi 9T ProとUMIDIGI Xでは色味もにており、一見差がないように見えますが、Mi 9T Proのほうがザラつきもなく駅構内まで鮮明に映っています。
UMIDIGI Xの夜景写真は、UMIDIGI F1とMi 9T Proのちょうど中間ぐらいの美しさです。
ウルトラワイドアングルモード
超広角ではUMIDIGI XもMi 9T Proと同じぐらい広く撮影が可能です。ただし、詳細に見比べると写真はMi 9T Proの方が鮮明で美しく見えます。
2x撮影
2xで撮影したものを切り取った画像です。明るさや鮮やかさ、詳細さのどれをとってもさすがにMi 9T Proのほうが美しいです。
ステレオモード
A5 Proのステレオモードとくらべればかなりマシですが、左側の草を見ていただければ判るとおり、手前の草を途中から急にぼかして背後の草にピントが合うなど、相変わらずボケが不自然で使い物になりません。
A5 Proに続いて、深度カメラは今回もその役割を果たしているとは言い難いところです。
UMIDIGIが「X」で削ってしまった機能を検証
解像度
上の画像はMi 9T ProとUMIDIGI Xの設定画面の文字をそれぞれキャプチャし、ほぼ同じサイズに拡大したものです。
解像度が1080 x 2340px (フルHD+)のMi 9T Proに対し、UMIDIGI Xは720 x 1548px(HD+)です。拡大してみるとドットが荒いことがわかります。実際ディスプレイに目を凝らせば、アイコンの絵が荒っぽく見えますし、文字のドットが目で見えます。
画面解像度の低さは明らかにUMIDIGI Xの欠点の一つですが、思わぬ副作用もあります。上の画像はUMIDIGI XのAntutuスコアです。CPU性能は60%のユーザーを上回っており、なかなかのものですが、GPU性能はいまいちです。
ところが触ってみた印象では、UMIDIGI Xはベンチマーク以上にきびきびとよく動くと感じます。これはかつて画面解像度1136 x 640pxだったiPhone SEが解像度の高いiPhone 6sよりサクサク感を体感できたことと似ています。
解像度の低さは、UMIDIGI Xに搭載されたSoC「Helio P60」が苦手とする3Dレンダリングの処理も軽くします。Helio P60が苦手とする3Dゲームをプレイする上では、解像度の低さはむしろフレームレートを上げるうえで大きな利点になっています。
実際、GPU性能は下から3割にもかかわらず、PUBG Mobileのデフォルト設定は「標準画質」です。
解像度の低さは、もちろんバッテリーもちの良さにもつながります。もともと4150mAhの大きめのバッテリーを積んでいる上、有機ELになったことで消費電力が少なくなったUMIDIGI Xは、解像度の低さも手伝ってなかなかバッテリーが減りません。
今回の記事を書く間も、あまり使わなければ1日放っておいてもバッテリー残量は90%以上残ったままでした。
画面解像度ひとつを捨てて、処理性能やバッテリーもちのバランスを取る絶妙な「見切り」は、いかにもUMIDIGIらしいといえるでしょう。
その他
問題点
起動の際にも初期セットアップでWi-Fi設定ができない不具合について書きましたが、ほかにもダークモードにならないという不具合がありました。
上の画像を見てのとおりです。端末のテーマに「ダーク」を設定していますが、設定画面の背景はアイボリーのままです。
3ボタンが隠せるようになった
3ボタンナビゲーション(ホーム / 戻る / タスク)が隠せないというのは、UMIDIGIのスマホユーザーがしばしば感じる不満のひとつでしたが、UMIDIGI Xでは一番左側のマークをタップすることで3ボタンが隠れるようになりました。
まとめ
良い点
2万円台のスマートフォンにしては良いカメラがあり、UMIDIGI F1とほとんど同スペックでありながら、やや味付けの異なるスマートフォンに仕上げることにUMIDIGIは成功していると思います。
動作は非常にスムーズで、本格的な3Dゲームをプレイしない限りUMIDIGI Xがもたつくと感じる人はいないでしょう。大量に撮影した写真も、Googleフォトを開けば一瞬でサムネイルが表示され、スクロールもまったく引っかかることはありません。
バッテリーもちがよく動作もサクサクで、ディスプレイの解像度が低いことは、このスマートフォンに限っては決して欠点になっていないと感じました。
悪い点
まだいくつかバグが残っていることは明らかな欠点です。
また、カメラのスーパーナイトモードやステレオモード、画面内指紋センサーには過度な期待をしてはいけません。
解像度が低いことから、アイコンのような小さな画像は詳細が潰れてしまい、人によっては気になるかもしれません。小さな画像以外ではかなり目を凝らさないとドットの粗さは目に見えないので、気にならない人はまったく気にならないかもしれません。
コスパ良好、割り切りが良いスマホ
UMIDIGI XはUMIDIGIらしい「取捨選択」が良い方に働いたスマートフォンといえるでしょう。
プロモードを使わないような写真下手なユーザーにとっては、価格が倍のMi 9T Proより良い写真が撮れるケースも(稀に)あり、セール状況によっては2万円以下で買える価格帯のスマートフォンとしては、かなりオススメできるスマートフォンのひとつです。
同じUMIDIGI F1の強化版であるUMIDIGI F1 Playとどちらを選択したほうが良いかは悩ましいところですが、黒猫の飼い主である私としては、UMIDIGI Xをかなり気に入ってしまいました。黒猫オーナーの方には、自信を持ってUMIDIGI Xをオススメしたいと思います。
綺麗な背面ですね
あと猫かわいい