スマートフォン業界のスタンダードであるiPhone。先日、その新型であるiPhone 12シリーズが発売されました。私もiPhone 12シリーズの中で最も手に入りやすいモデルであるiPhone 12 miniを購入しました。
スペック、5G、ディスプレイなど様々な点で進化していますがやはり気になるのはカメラ。広角カメラのF値が1.8から1.6へとアップグレードしたことにより27%多くの光を取り入れることが可能に。超広角カメラはナイトモードに対応。それに加え、新しく搭載されるA14 BionicによるスマートHDR3で被写体を認識し最適な処理を施します。
そんな優秀なカメラが詰まったiPhone 12と全く同じカメラ性能で、133gのコンパクトな筐体にギュッと詰まっているのがiPhone 12 mini。小型化の代償がカメラ性能に影響しない、そんな唯一無二のスマートフォンなのです。
今回はそんなiPhone 12 miniのカメラ性能に注目したレビューをお届けします。
※記事の軽量化のため、掲載している写真は圧縮してあります。タップでピクセル等倍の高画質写真が見れますのでぜひご活用ください。
目次
表現力を広げる超広角×ナイトモード
iPhone 12 miniのカメラの最大の特徴は新たに超広角カメラでナイトモードに対応したこと。これにより、超広角の夜景写真を積極的に撮ることができます。
丸の内にある新丸ビルをナイトモードでパシャリ。iPhoneの超広角カメラは13mmなのでダイナミックな構図で撮影できます。ナイトモードのおかげで空の雲の様子を撮影できました。
手前は仕事帰りのお客さんを運ぶタクシー。タイミングを狙うことでレーザー写真になったものの、被写体が激しく動いているためノイズが目立ちます。
中央の「BEAMS」の文字はかろうじて読むことができるレベル。ダイナミックレンジが狭いと言いたいですが、暗い夜空を浮かび上がらせているのであまり文句は言えません。
こちらは屋内の写真です。ビルの角にたって撮影したところ、左右の天井までもが映りました。さすがは超広角!
1枚めと同じく点光源の光芒が美しいです。絞りがあるわけではないのになぜ光芒が出るのでしょうか。謎です。(レンズ面はきれいに清掃してあります。)
こちらは有楽町の東京国際フォーラムにて流れ星、彗星を意識した構図で撮影。先程に引き続き光芒が美しいです。
新たに超広角カメラでナイトモードが利用できるようになったことで表現の幅が大きく広がったことを感じます。特に、建物が密に連なっている都会の夜景はより広く、よりダイナミックに写したいので、超広角ナイトモードは素晴らしい進化だと言えるでしょう。
最短撮影距離が厳しいポートレートモード
次に背景ボケが楽しめるポートレートモードを見ていきます。
こちらはライトアップをバックに撮った鳥の像です。左の羽の部分など、ボケの境界で気になる点はあるものの概ね良好です。右の羽なんかは徐々にボケていて個人的には好きです。
背景の点光源はきれいな丸ボケとなっています。撮影後の編集でF値を小さくすることでより大きな丸ボケにすることも可能です。
より境界が複雑な花の写真を取ってみたところ、こちらはちょっと違和感多めとなりました。背景が明るいため花弁の縁が明るく半透明になっていたため、うまく処理できなかったのだと思われます。しかし、これら2枚ともSNSでシェアする程度であれば全く問題ありません。
一方で全く改善が見られないのが撮影可能な距離。だいたい30cmから2.5mの間に被写体を設置しなければポートレートモードが利用できません。つまり、寄って撮影ができないのです。
26mmの焦点距離で最短撮影距離が30cmというのは意外と被写体が小さく写ります。特にカフェやレストランでテーブルフォトを撮ろうとすると意外とポートレートモードが使い物にならないことが多いです。
そもそもAppleはボケモードではなく「ポートレートモード」という名前をつけていることを考えると、「テーブルフォトが撮りにくい!」という文句もお門違いなのですが、他社スマホと比べると撮影可能距離には物足りなさを感じますね。
「ポートレートモード」なので一応ポートレート写真も撮っておきました。コントラストがはっきりとしている状況であれば素晴らしい写真が撮影できます。地面のボケもなめらかです。
iPhoneのポートレートモードはあくまでポートレート向きであり、ブツ撮りはおまけだと考えてもいいのかも知れませんね。
ナイトポートレートモードはなくてもいいと思う理由
iPhone 12 ProはLiDARが搭載された影響でナイトポートレートモードに対応した一方で、ProがつかないiPhone 12シリーズは通常のポートレートモードしか利用できません。しかし、私はナイトポートレートモードは(ほとんどの人は)必要ないと考えています。
理由は簡単。暗いものにフォーカスした写真なんてほとんど撮らないからです。
夜景など全体的に暗い写真を取る機会は多いものの、被写体(図)が明確なものを真っ暗な場所で撮る機会はほとんどないです。事実、上の3枚の作例は全て夜の写真ですが、被写体にはしっかりと光があたっているためナイトモードがなくともきれいに撮影できます。
夜景のホワイトバランスはイエローが強く、改善の余地あり
ここまで全て夜の写真ですが、全体的にイエローよりの写真となっているのが気になります。
iPhoneは今までずっとホワイトバランスがイエロー寄りとなっているのが課題でしたが、そこは改善が見られませんでした。
Lightroomで編集後の写真
もちろんちょっと編集してやればバランスのいい写真になります。
しかし、編集すればいい写真になるというのが許されるのはより趣味性の高い一眼カメラだけです。(※あくまで筆者の意見です)
スマホカメラはHDR等のソフトウェア処理を活用することで初心者でもワンタップで美しい写真が撮れることこそがメリットです。「撮影後にLightroomに読み込んでホワイトバランスを調整してからシェア」はスマートとはいえません。
もちろん昼間の青空があるシーンであれば極端にカラーバランスがおかしくなる事はありません。
夜景撮影時のホワイトバランスはiPhoneの大きな課題の一つです。今後のアップデートやiPhone 13シリーズに期待します。
逆光性能は評価が分かれる点
イチョウの木を逆光で撮影。あえて太陽が一番入る位置に調整し、フレアが大きくなるように撮った一枚です。
かなり意地悪な構図となっていますがなかなか善戦しています。イチョウや右の松の木の色味が損なわれることなく、鮮やかさを維持しています。これがスマートHDR3の効果なのでしょうか。
フレアは7色に輝いており、対角上に大きなゴーストが発生しています。これを逆行耐性が低いと捉えるか味があると捉えるかは人次第でしょう。ちなみに私はかなり好きです。これだったらLightroomでフレアの色味を強調する編集をすると思います。
しかし、左側のお寺がノイジーなのはいただけないですね。屋根に隠された部分なんてどうなっているかも想像できないほど潰れてしまっています。流石にこの明暗差はカバーできないようですね。
スマートHDR3は非常に繊細である
iPhone 12シリーズは被写体を認識して、自動的にそれぞれに適切な露出を設定する「スマートHDR3」を搭載しています。しかしこれがかなり繊細なのです。
先程のイチョウを超広角カメラを使って順光で撮影した一枚です。
木の幹や左の木が暗いので同じ構図で露光を少しだけ上げた写真がこちら。イチョウの幹はイチョウの黄色い光を反射し美しい色合いとなりましたが、背景の雲やお寺の一部が盛大に白飛びしてしまいました。スマートHDR3はシャッターを押すだけで美しい写真が撮れる一方で、変に露光をいじるとこのように残念な仕上がりとなってしまいます。
こちらは福島県裏磐梯にある五色沼からの夕焼けです。手前の沼、森は非常に暗かったにもかかわらず、スマートHDR3で前景と空がしっかり区別されたため、鮮やかな夕焼けと森、そしてブルーの沼がバランスよく撮影できました。
一方で、沼に反射した空は空と認識されていないためかなり明るく撮影されてしまっています。実際は反射光のほうが暗くなるはずなのに逆転してしまっている点は不自然です。それでもぱっと見た感じは違和感がないのはなんででしょうね。
作例集
ここまでiPhone 12 mini細かいカメラ能を見ていきましたが、最後は単純に「こんな写真が撮れるよ」ということで作例集をお見せします。
※撮って出しではなく編集しています。編集はiPhone上のLightroomで行っているため、iPhone 12 miniだけでこんな写真が撮れるという参考にしてください。(ちなみに書き出しは1秒もかからず超高速です。)また、タップでピクセル等倍の写真が見れますのでぜひご活用ください。
まずはお昼の写真から。
こちらは猪苗代湖から眺める表磐梯です。磐梯山は噴火によって山体が崩落しているものの富士山と同じ単独峰の成層火山であり、その美しさから会津富士と呼ばれています。
猪苗代湖の湖畔はビーチとなっており、たくさんのキャンプ客がいました。静寂な湖と雄大な山というその場の雰囲気をうまくうつしとれています。
磐梯山の裏側は裏磐梯と呼ばれており、噴火の影響でたくさんの沼ができています。
一部の沼は火山から生まれた硫化物による乱反射で鮮やかなブルーとなっています。そんな沼と裏磐梯を夕方に撮影した一枚がこれ。
だだっ広い空ではなく木々に囲まれているところをあえて写すことで額縁のような効果を入れつつ、周辺光量を抑えることで中央に視線を誘導し、より印象的な写真に仕上げました。色々編集しても色が崩れないのはiPhoneの魅力の一つです。
こちらは福島県西会津街道の山中にある大内宿です。中山道の妻籠宿、奈良井宿に次ぐ3番目に伝統的建造物群保存地区に選定された場所であり、茅葺き屋根が並び当時の宿場町の面影を残す美しい場所です。
大内宿の端の高台からデジタルズーム2.2倍で撮影したのがこの写真です。天気が悪く鮮やかに撮ることができなかったため、歴史のある街っぽく映るようにセピア風の編集をしてあります。
EXIFを見るとデジタルズームをしているのに1,200万画素を維持しているため、いわゆる超高解像ズームのような機能を使っているものだと思われます。実際の写真もデジタルズームをしたとは思えないほどきれいですね。
こちらは超広角カメラの写真です。
出会いの縁があるイチョウの木と信じられている場所であり、木を囲うようにしてたくさんの絵馬が飾られていました。
超広角で下からあおるようにして撮影することでその文脈を写真に写し取ることができます。パースが付いてインパクトのある写真になるのも素晴らしい。また、逆光でイチョウの葉の透明感がでているところが美しいです。
こちらは裏磐梯の湖沼群です。先程とは違う場所から撮影したものとなっています。
こちらも天気が悪く色彩がでなかったのでハイコントラストなモノクロに編集しました。
スマートHDR3で空の階調が残されているため、雲の模様をバランスよく組み込むことができました。
こちらは東京大学の工学部です。ガスった日に光が差し込んで美しいので私のお気に入りの場所です。
流石に太陽光が差し込む部分は大きく白飛びしてしまっていますが、天使の梯子がくっきりと写せました。柔らかな光とは対象的に金属の無骨でソリッドな質感も1枚の写真に落とし込めています。
一方でエメラルドカラーのゴーストが光源の対角線上に大きく出てしまったのは残念な点です。
超広角×ナイトモードの作例を編集したものがこれです。
ホワイトバランスを寒色よりにし、流れる雲をより浮かび上がらせました。下部のノイズが気になりますが、全体的にはダイナミックでインパクトのある一枚になったと思います。
超広角カメラは撮影のポジションが少し変わるだけででてくる絵が変わってくるのが本当に面白いです。ナイトモードで自分の表現が縛られなくなったのは高評価です。
地下への入り口を一点透視図法でパシャリ。
超広角カメラ×一点透視図法の日の丸構図はインパクトの大きい写真が撮れます。解像感、質感ともに良好で、編集しても写真が大きく崩れないのはポイントが高いです。
まとめ:ミニマルで高画質。完璧だとは言えないが非常に楽しい一台
超広角から(デジタルだけど)望遠まで、HDRで明暗差を補正しナイトモードで夜景も明るく、コンパクトでもポートレートモードでボケ写真が撮れる。まさにスタンダードなスマホカメラであり、それでいてテクノロジーが表現力を広げることを実感できる一台です。
今まで同様の機能を持つスマートフォンはたくさんありましたが、画作りのクオリティがここまで高いのはなかなか多くありません。確かにポートレートモードの撮影可能距離や夜景のホワイトバランスなど詰めが甘い部分も多いし、他社スマホのように「こんな事もできるんだ!」というサプライズもありません。しかし、これほどコンパクトな筐体に詰め込み、カジュアルに持ち出して利用できるスマホでこれだけ安定した写真が撮影できるスマホはiPhone 12 miniが唯一無二と言っても過言ではないでしょう。
これで良いのか