今年1月の米連邦議会襲撃事件を受け、トランプ大統領(当時)のTwitter・Facebookアカウントが凍結されてから、アメリカの保守派の間では巨大テック企業への不信感が強まってきています。今月初めには、彼らによる新たなSNS「Getter」がリリースされるなど、保守派と彼らが「リベラル的だ」と嘲笑するシリコンバレーとの対立は深まるばかりです。
そんな中、自称「世界最年少のビットコイン億り人」で保守活動家のErik Finman氏が7月15日に発表したのは、「私たちを攻撃する巨大テック企業への反抗」と「言論の自由」「検閲のない独自のアプリストア」などを謳う謎の500ドルスマートフォン、FreedomPhoneです。なんでも、「今のスマホで出来ている、検閲と盗聴を除いたすべてのこと」がこのスマホにもこなせるとのことです。
彼らは、巨大テック企業が自分たちの発言を検閲していて、凍結事件は言論の自由の侵害であると主張しています。
ところが早々に数々の怪しい点が暴かれ、実際は既存の巨大プラットフォームからの独立はほとんど達成できていないと発覚し話題に。Erik氏は火消しに奔走しています。一体、何がマズかったのでしょうか?
独自のOS、アプリストア、プライバシー機能はどれも既存製品がベース。自らの手による管理は出来ていない
「検閲や盗聴を行わない」、「言論の自由第一」などを掲げ、そのための独自アプリストア「PatriApp Store(Patriotは愛国者の意)」や独自OS「Freedom OS」を搭載しているものの、ウェブサイトにはそれ以外の技術的な情報が一切記載されていません。
どうやらブラックボックスの中身は、ほとんどが既存のプラットフォームに一部手を加えただけのもののようです。
PatriApp StoreのベースとされるAurora StoreはオープンソースのGoogle Playストアクライアントで、結局のところすべてのアプリはGoogle Playストアから配信されていたということになります。
Freedom OSはカスタムAndroidで有名なLineage OSがベースになっているとみられ、Erik氏もTwitterで「Freedom OSはLineage OSやAOSPと、同じくらいの独自開発をブレンドしたものだ」と打ち明けました。
FreedomPhoneの中身はほとんどが「巨大テック企業」やそれに準ずる組織による製品です。Erik氏の運営側はこのデバイスがバックグラウンドでいかなる通信をしようとも、それに手を出して食い止めることは出来ないでしょう。
デバイスは中国の中堅スマホメーカーUMIDIGIのリブランド品
さらに、FreedomPhoneは彼らが最も恐れるであろう中国本土のメーカー、日本のスマホマニア界隈でもよく知られた深圳市のUMIDIGIによる「UMIDIGI A9 Pro」のリブランド品であることが発覚します。日本でも販売されているこのスマホの価格はアマゾンで約2万円、AliExpressでは1万3000円。FreedomPhoneの定価ははるかに高価な500ドルです。
アメリカのリベラル系ウェブメディア「デイリー・ビースト」はErik氏への取材でデバイスがUMIDIGI製であることを認めさせましたが、同氏はその後Twitter上で「自由で、自由を愛する人々が居る香港のメーカーだ」と強調しています。UMIDIGIの本拠はあくまで中国本土であり、実際に製造が香港域内であってもそれは変わりません。
同氏はまた、”恐るべきことに”、米国内でスマートフォンを製造できる工場がどうしても見つからず、香港の工場にたどり着いたのだと、ある意味アメリカ国民の愛国心を煽っているともとれる発言をしています。
デバイスを宣伝したインフルエンサー達は、一台売れるごとに最大50ドルの報酬を得ている
FreedomPhoneの発表後、アメリカの著名な保守派インフルエンサーたちはこぞってこの端末を宣伝するようになりました。彼らはフォロワーに、自らのプロモーションコードを用いて端末を購入するよう促しており、一部は自らの収入になることを示唆しました。
FreedomPhoneのウェブサイトには「紹介制度」のページがあり、「紹介に成功した場合は最大10%の報酬」が支払われると記載されています。このスマホの原価率の低さを、こんなところからも窺い知ることができそうです。
Source:FreedomPhone, DailyBeast, GIZMODO
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