数日前、イギリスで5Gが新型コロナウイルスの感染拡大の原因だと信じる人々が5G基地局を焼き討ちにするという事件がありました。
また、日本でも一部の人々の間で同様の意見や、5Gが人体に悪影響を及ぼすと考えている活動家が多数見受けられます。
本当にそんな事はあるのでしょうか?今回は5Gが人体に及ぼす危険性を筆者なりに検証・解説する記事になります。よろしければ最後までお付き合いください。
目次
そもそも5Gとは?
5Gとは5th Generationの略です。日本語だと第5世代移動通信システムとなります。
いままでの4G通信がより進化したモバイルネットワークであり、高速性・低遅延・多数同時接続が特徴です。5Gのメリットは以下の記事で説明していますので参考にしてください。
5Gの発する電波で、従来の4Gと違う点は使われている電波の周波数と基地局の数です。
4Gではおおむね0.8-3.5 GHz周波数帯の電磁波を利用していましたが、5Gでは帯域が広く、高速通信が可能な高周波数帯の0.6-53 GHzの電磁波を利用しています。
また、周波数が高くなるにつれて電磁波の直進性が強くなり、電波が遮られやすくなってしまうため、一般的に5Gの基地局は4Gの基地局よりも多くなります。
5Gで使われる電波の性質についてはこの記事で少々説明しています。
5Gが危険だと考えておられる方々の多くは電波が高周波数になったこと、基地局の数が増えたことで健康被害があるのではないかと考えているようです。
高周波数帯の電波は健康被害を及ぼすか
まずは高周波数帯の電波がどれぐらい人体に影響を及ぼすかを考えてみましょう。
まず、電波とは何かを説明します。
電波とは電磁波の中で3THz以下のものを指します。その正体は電場(静電気みたいなもの)と磁場(磁石から出てるやつ)の変化の波であり、1864年に電磁気学の基礎であるマクスウェル方程式の完成から現代に至るまで長く研究されているものです。
電波は古くから利用されている上、自然界にも存在するものです。
まずは電磁波全体から。実は、通信に使われる電波は、赤外線、可視光(いわゆる光)、紫外線、X線、そして放射線の一種であるガンマ線の仲間です。違いは周波数のみです。
電波をもっと詳しく見ていきましょう。当たり前ですが、ラジオ、テレビなど身近なものも電波を利用しています。
これを見るに、4Gの周波数よりもETC、無線LANのほうが周波数が大きいし、何なら可視光は4Gよりも断然周波数が高いです。
数値でいうと日本では4Gのメイン周波数はBand 1の2.1 GHz、5Gのメイン周波数帯はn77の3.7 GHzです。あまり変わりませんよね?また、Wi-Fiの周波数は5.0 GHzが主流です。周波数が大きくなった程度で人体へ影響があるというのがいかにおかしい話か分かりますよね。
これでは納得しない人がまだいるかも知れませんので更にもうすこし追求していきましょう。
人体に影響のある電磁波はエネルギーの高い電磁波である
電磁波の中で人体に多大な影響を与えるものはエネルギーの高い電磁波です。これには周波数が高い放射線の一種であるγ線やX線、そして紫外線がこれに当たります。
これらの電磁波は分子に当たると分子が壊れ、電離を起こします。これにより、DNA等の生体内分子が損傷を起こし、様々な病気を引き起こします。「放射線を浴びすぎると体に良くない」「太陽光(紫外線)を浴びすぎると皮膚がんのリスクが高まる」などがこれに当てはまります。
一方で、電波、マイクロ波、赤外線など周波数の低い電磁波はエネルギーが低く、分子にあたっても分子自体をを壊す力はなく、伸縮させたり振動させたりする力しかありません。例えば電子レンジ。電子レンジは4Gと近い周波数である2.45 GHzの電磁波を利用しています。この周波数の波は水分子と共鳴をおこし、振動させることで熱が発生します。
※電磁波のエネルギーEは以下の式で定義されます。
E = hν
hはプランク定数という定数、νは振動数、つまり周波数です。つまり、電磁波のエネルギーは周波数に比例します。
つまり、周波数が若干大きくなった程度で体内の分子やDNAが破壊されることはありません。5Gの電波で熱が発生することはあっても、強度抜きに周波数的な観点のみ考えるとWi-Fi、4Gを同じ程度だといえるでしょう。
電波の強度は4Gよりもむしろ弱い
「5Gは通信速度が早くなってや接続台数が増えたから電波が強くなったのだ!だから健康被害が起こるのだ!」という意見があるかもしれません。しかし、5Gの出力はむしろ4Gよりも弱いというのが現実です。
そもそも5Gの通信速度が早くなったのは高い周波数帯を用いたことによるデータ量の増加(波の数が増えてたくさんのデータを送受信できるようになった。)や、帯域の増加(使える周波数の幅が広くなったためデータの渋滞が減った。)、基地局ネットワークの改善による電波干渉を抑止した結果です。電波が強くなったわけではありません。
むしろ今はなき2G、3G、そして4Gへと変遷していくにあたって、アンテナの感度が上昇したため電波の強度はどんどん低くなっています。4Gは大型基地局が40W、小型基地局が20Wでしたが、5Gになってミクロセル型基地局が10W、ピコセル型基地局が250mWと大きく減ったというはなしもあります。
基地局の数の増加は5G電波の減衰率で打ち消される
5Gの基地局の数は4Gの基地局の数より多くなることは事実です。しかし、だからといって我々が晒される電波の量は変わりません。
そもそも5Gの基地局の数が増えるのは5Gの電波が減衰しやすいためです。これは、5Gがより周波数の高い、つまり波長の短い電波を利用しており、回折現象が起きにくく、雨、水蒸気、チリなどの空気中の粒子による遮蔽を受けるためです。
4Gと5Gの発する電波の強度が同じという仮定をしても、減衰率に応じた基地局展開をしているのであれば電波の強度を面積で積分してみるとおなじになるはずです。これは高校数学レベルですので興味があれば計算してみてください。
新型コロナウイルスと関連付けるには根拠が乏しい
と、このように5Gの電波が人体にどれほど影響を与えるのかを物理的な観点から考えた場合、周波数・電波の強度の両方の面において影響はそこまで大きくないだろうということが推測されます。
得体のしれない電波という新しい技術が登場して不安に感じるのは分かりますが、新型コロナウイルスと関連付けるのに関しては到底理解できません。電場・磁場の変化という物理現象とウイルスという生物学的現象(正確には生物ではないのですが、その話はここでは割愛します)を結びつけるのには相当無理があるでしょう。
5Gがコロナウイルスの感染源になっていると主張する人の根拠を見ていきましょう。
「新型コロナウイルスの震源地の武漢では5Gの試験が行われていた」
2019年度、日本では大阪府・長野県などで5Gの検証実験が行われていました。また、全世界でも同様の実験が行われています。
また、Huawei、ZTEといった通信機器メーカーの拠点は武漢ではなく深センです。西洋諸国の通信機器メーカーのNokia、Ericsonのある北欧でも検証実験は行われていたでしょう。
そもそも新型コロナウイルスの震源地で5Gの検証実験が行われていたことから5Gがコロナウイルスの原因だと考えるのはあまりにも短絡的です。「殺人犯はパンを食べていたからパンを食べていたら殺人を起こすのだ」という意見と同じように論理的におかしいです。
「日本で最初に新型コロナウイルスが発見された北海道のさっぽろ雪まつりでも5Gが使われていた」
さっぽろ雪まつり以前でもビックサイト・東京国際フォーラムなどでおこなわれるような大規模イベントにキャリアが5Gの宣伝にくるというのは普通です。札幌以外でコロナウイルスが発生しなかった理由の説明ができていません。
また、さっぽろ雪まつりでは武漢からの観光客から感染したということがわかっています。こちらは5Gよりも現実的な感染経路だと思うのですがどうでしょうか?
このように、メカニズムに関する説明はなく、新型コロナウイルスが猛威を奮っている場所で5Gがあったという事実関係をあたかも5Gが原因であるかのようにして主張する意見が多く見られました。
電場・磁場の変化でウイルスが発生する、もしくはウイルスが活性化する(?)といった事実があるならノーベル賞級の発見ですのでそのような仮説があるのでしたら是非研究を進めていただきたいところですね。
理解できないものを受け入れるのが難しいのなら理解する努力をしよう
5Gと新型コロナウイルスに共通する部分は「目に見えない」「得体のしれない」といったところだと思います。
自分の理解できないもの・得体のしれないものを目にするととりあえず拒絶をしてしまうのが人間というものです。5Gの基地局に放火してしまうのも、移民問題、ワクチン反対派などの問題も根底は暗闇・宇宙・深海に対する恐怖、つまり自分の理解できないもの・得体のしれないものを拒絶してしまう気持ちと同じなのかもしれません。
しかし、拒絶していては前へ進めません。目の前に自分の理解できないものが目の前に広がっているのであれば、色眼鏡をかけずに理解しようと努力する姿勢が大事だと思います。
5Gに限ると、5Gとはなにか・電磁波とはなにか・5Gに使われている技術は?4Gとの違いは?歴史的にどんな研究がされてきたか。そういった背景・文脈を理解できるようになれば5Gは怖くありません。理解できずとも理解する努力をすべきです。
Je sens trop, et je l’ai dit ailleurs, que nous entrons dans l’venir à reculons.
(我々は、後ずさりしながら未来に入っていくのです)
- ポール・ヴァレリー『精神の危機 他十五篇』 -
理解のできない魑魅魍魎に対して目を背けたくなる気持ちはわかります。しかし、目を背け、後退りしながらでも我々は前に進んでいくべきなのではないでしょうか。
我々はライターです。スマートフォンに関する知識であれば我々も全力で伝える努力をしていく所存です。これからも皆さんの理解する努力を手助けしてい来たいと思いますのでよろしくおねがいします。
⚠免責事項
筆者は一般大学生であり、無線通信の専攻でも専門家でもありません。
この記事は筆者の持っている教養レベルの知識をベースに大手企業・官庁などの情報をもとに執筆しています。当記事を参考にして起きた損害に関しては責任を負いかねますので、ご了承願います。
何か質問があればコメント下さい。専門家ではないので全てに答えるのは難しいですが、ぜひ一緒に建設的なディスカッションをできればと思います。
得体のしれないものを理解する努力をしよう、大学生でなかなか良いこと言うな。でも社会に出て、その努力をしないプレスに押しつぶされないように、あまり他人に期待するなよ。理解する努力をしないやつを理解する努力が必要なときもあるし必要じゃない時もある、考えるな、ただ進め